活動会員のレポート

商社活動とSDGsの親和性
東洋英和女学院大学大学院「ビジネス-企業と国際協力」での講義

 国際社会貢献センター 監/日本貿易会 政策業務第三グループ兼総務グループ次長  保田 やすだ 明子 あきこ

 日本貿易会に勤務する中で、さまざまな商社の創業者と発展の歴史を調査し、商社活動の本質について研究活動を行ってきた。この経験を基にABICの活動に参加したいと考え、2020年より会員登録させていただいた。ここでは2021年度後期に東洋英和女学院大学大学院で講義した「商社活動とSDGs(Sustainable Development Goals;持続可能な開発目標)の親和性」について紹介したい。

SDGsとESGの違い
 今や至るところで目にするようになったSDGsは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標であり、17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている(注)。発展途上国だけでなく、先進国も取り組むユニバーサルなものとして、2019年ごろより日本でも積極的な取り組みが見られるようになった。
 SDGsが目標であるのに対し、その目標を達成するために企業が取り組むべき手段がESG(Environment・Society・Governance; 環境・社会・ガバナンス)である。SDGsが幅広い人々を対象とするのに対し、ESGは投資対象の文脈で使用されることが多い。企業はESGに配慮した経営を行うことで、投資家に支持されやすくなり、投資家はESGの視点を持って経営を行う企業に投資することで間接的にSDGsの実現に貢献することができる。

(注)2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された。



学生のSDGsに対する関心は高い
(東洋英和女学院大学大学院国際協力研究科での講義の様子、右上が筆者)
ESG経営が加速する商社~脱炭素に向けた取り組み
 最近、商社が保有する石炭権益を売却するなど、脱炭素に向けた動きが加速している。CO2排出量が多い石炭に対する国際的な問題意識が高まり、日本政府が2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」目標を打ち出したことで、銀行や投資家から脱炭素に消極的な企業だとみなされると企業価値が下がりかねず、商社もESG経営を強化している。
 石炭に代わって期待が高まっているのが燃料時にCO2を排出しない水素やアンモニアである。経済産業省が2021年7月に出したエネルギー基本計画原案では、2030年度の電源構成に水素・アンモニアが初めて盛り込まれた。企業の永続的な発展のためには収益の確保が前提となるが、商社が再生可能エネルギーに加え、水素・アンモニアなどの脱炭素に関連する事業を石炭事業に代わる収益源に育てようと新たな挑戦に取り組む動きが目立つ。こうした商社のESG経営が未来のカタチであるSDGsの実現につながっていくことになる。

商社活動とSDGsの親和性
 商社の歴史は、困難に直面しても次世代を見すえたイノベーションを創出し、新たな時代の到来をリードしてきた歴史である。これまで商社活動の本質は近江商人の「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)で表現されることが多かったが、より正確に表現するならば「三方よし」に未来志向を加えた「四方よし」が商社の本質ということになる。これこそまさにSDGsの実現に向けた取り組みであり、商社活動とSDGsの親和性は極めて高い。一般的にSDGsに対する関心は高まったが、まだまだ理解されていない商社活動の本質を語り、一人でも多くの方に商社を理解していただくことが私自身のSDGsの実現に向けた取り組みである。

学生のSDGsに対する関心は高い、しかし…
 こうした思いを込めて、商社とSDGsの親和性についてさまざまな大学で話をするが、学生たちのSDGsに対する関心が非常に高いのには驚く。例えば、今回の東洋英和女学院大学大学院の受講者の研究テーマは、ジェンダー、気候変動、企業の社会的責任といった、いずれもSDGsにつながるものであった。しかし、残念ながらそれをより大きな視点でとらえ、多くのサプライチェーンの源流に商社の存在があることを意識している学生にはなかなか遭遇しないのが実態である。今回の受講者からも「商社が単なる貿易会社ではないことを知って目からうろこが落ちた、世の中を見る目が変わった」という感想が寄せられた。まだまだ商社の本質を語る旅は続く。

おわりに~SDGsの観点からみたABIC
 ABICは、民間レベルでの支援・交流活動によって国内外に社会貢献を行うことを目的に2000年に創立されたが、SDGsの「目標8 働きがいも経済成長も」につながる組織である。SDGsよりも15年以上前にスタートしており、ABICは、「商社の時代を先取りする力」を実証しているといえる。この組織に関わる全ての方に、今後もよりいっそう胸を張って取り組んでいただきたい。