活動会員のレポート

アナログ人間の「オンライン講義」挑戦記

  公平 こうだいら 伸夫 のぶお (元 三菱商事)


講義風景

 私は、サラリーマン生活を終えた2011年から、ABICの紹介で専門学校や貿易関係団体で貿易実務講師の活動を行ってきた。私が実施してきた講義は全て教室型の対面方式であったが、コロナ感染の拡大により、この2年間ですっかり様相が変わってしまった。受講者を一堂に集めて行う対面方式の講義は「3密」のリスクが高いため、非対面のオンラインによるものに一挙に切り替わってしまったのだ。団塊の世代である私にとっては、授業は黒板に向い壇上に立つ先生から直接受けるものであり、教える立場としても最も効果が高いものであるとの強い認識があった。従って、この10年間も黒板に文字や図をたくさん書いて、受講生にノートを取らせることが私自身の指導のスタイルとして定着していた。それがある日突然のように、パソコンの画面を通して講義をすることが求められてしまったのである。パワーポイントの作り方も分からず、パソコン操作もあやふやなアナログ人間の私にとっては、いよいよ「年貢の納め時がきたか」とつくづく感じ、再就職支援講座としてとりわけ思い入れの強かった専門学校の講師については、潔く辞する決意をした。
 そのような中、2021年春、ABICが長年にわたり受託している横浜貿易協会の貿易講座についても、案の定、先方からオンラインを前提としたパワーポイントによる講義への切り替えのリクエストが来てしまった。辞退すべきかどうか思い悩んでいたところ、旧知の貿易実務講師の方からITに詳しいTさんを紹介していただく幸運に恵まれた。九死に一生を得たような気持ちで、原稿作りに無我夢中で取り組んだ。私の殴り書きのような原稿を、Tさんはまるで魔法使いのように物の見事に、美しく分かりやすい画面に仕上げてくれた。そして、私自身も本番では肩がガチガチになるような思いの中で不慣れなパソコン操作に臨み、結果として無事に初体験を終えることができたのである。子供のころ、初めて水の中で泳げた時のような、ワクワクしたうれしい気持ちになり、「何とかやれるぞ」との思いで次に向けての挑戦の期待が大きく膨らんだ。
 秋口になってチャンスが訪れた。ABIC経由で、株式会社日本貿易保険(NEXI)の社内研修講師のお話を頂いたのだ。NEXIといえば、貿易業界では誰もが認知している日本政府100%出資の貿易保険会社であり、2017年に独立行政法人から株式会社に移行している。社員の方は、皆さん貿易に関してはそれこそプロであり、私にとっては緊張や躊躇ちゅうちょも多少あったが、せっかくのチャンスでもあり思い切って取り組むことにした。事前打ち合わせで訪問した際、先方より、貿易実務の内容よりも商社における債権管理対策やトラブルの事例などを中心に話してほしいとの要請をいただいた。そこで、今回もTさんにご協力を願い、受講される方が興味と関心を持っていただけるように、いろいろ工夫し画面作りに取り組んだ。90分の持ち時間であったが、80枚近い画像を作成しオンラインによる講義に臨んだ。Teamsという聞きなれないシステムではあったが、水道橋にある東京本社と大阪支店の50余人の方が、画面の向こうで聴講してくださった。講義終了後には、音声を通しての質問もいただき、受講された方との一体感も得られ、満足した気持ちで終えることができた。一時は、コロナとともに隠居老人となることも覚悟していたが、強力な助っ人の出現の下ABICを通じ二つのオンライン講義を経験でき、新たな挑戦への世界が広がりうれしい限りである。


講義資料(抜粋)