活動会員のレポート

野口直子先生と二十八の瞳
―新たな国際社会貢献の扉を開く―

  田形 たがた 博敏 ひろとし(元 三井物産)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)禍を乗り越えて
 ウィズコロナで2020年度ABIC日本語教師養成講座は中止となった。
 2021年4月に入り、私たち受講生総勢14人が異例の体験をすることになった第30期講座がついに開講された。足かけ2年、再開を目指して異次元のABICバズーカを打ち続けて下さった宮崎事務局長ならびに関係各位の不屈の精神とご尽力に対し私たちは敬意を表し、また、新型コロナウイルス感染が拡大し、誰もが逃げ腰となる中、新たに戦時の講師を引き受けてくださった野口先生の不動の勇気に対し感謝の誠を捧げたい。
 終盤主流となったオンライン講義の間隙かんげきを縫いながら、あくまでも対面にこだわり、限られたチャンスを追求し続けたひとりの女性教師と二十八の瞳。講座の平均年齢は65歳と若くはないが、さすがに鍛え抜かれた企業戦士ぞろいであり、一人の落伍らくご者もなく、皆が6ヵ月の講座を皆勤した。時に厚いアクリル板で互いに隔離され、時にオンラインでの遠距離交信に苦心惨憺さんたんしたが、異例の環境下にあって私たちの連帯意識は純度を高め、平時より強固になった。


対面授業の様子
未知の外国語学習:私の原体験
 1981年、私はブエノスアイレスで人生初のスペイン語を習得した。
 未知の言語を習得するすべは赤ちゃんがお手本となろう。生後1年余りただ聞いているだけでも、ある日蓄積された水がダムからあふれ出すように単語を発し始め、たちまち語句や文章を成し、ほとばしるように自分の意思を表現できるステージにジャンプアップする。私のスペイン語習得も同じ道をたどった。
 私は大学教員を務めていた時分に日本語で多くの外国人留学生に経営学を講じたが、N1/N2の資格をすでに取得していた彼ら/彼女らと、インバウンド来日外国人観光客・ビジネスマンなど(2018年過去最多の3000万人超え)や在留外国人とその家族(2019年過去最多のほぼ300万人)とではセグメントが全く異なる。後者は日本語を未知の言語とするがゆえに、異なる指導メソッドを必要とする。私はブエノスアイレスでの原体験を、初級者向け日本語指導の「原点」にしたい。

「新たな国際社会貢献」の勧め:ABICの役割期待
 2021年9月15日付の日本経済新聞朝刊は、「来日外国人の子供たちに日本語を指導する教員が慢性的に不足しており、2018年度には“指導者がいない”との理由で2万人以上の外国人児童生徒が日本語の授業を受けることができなかった 」と報じた。外国人との共生の担い手となる幼い子供たちが十分な教育を受けられないとすれば、この日本で成長する外国出身者が高等教育の機会を得ることはできないということになる。これでは、わが国が目指す高度人材確保によるグローバル化の推進も画餅に帰すだろう。
 ポストコロナ時代に急激に増加することが予想される在留外国人とその家族との多文化共生の切り札は、日本語指導を通じて日本、日本人への理解を深めてもらうことだと考える。ポストコロナの扉が開かれる日はすぐそこに迫っており、この時宜を得て、ABIC第30期日本語教師養成講座を修了した私たちの二十八の瞳には、新たに広がる国際社会貢献の世界へとつながる一本道が見える。
 私は、日本貿易会の「日本初の業界NPO(国際社会貢献センター=ABIC)を設立する準備委員会」の座長を務めた。企業倫理は、社会の要請に従い、フィランソロピーからCSR(企業の社会的責任)へと深化した時代であった。あれから20年、ABICはさまざまな分野で活動が拡大しているが、この分野での文部科学省や地方自治体・教育委員会などの求人を深堀りし、会員の活躍の舞台を発展的に拡張していただくよう期待する。最後に、ABIC、日本貿易会の関係各位に対し改めて感謝申し上げる。