東京製靴協会の経営者たちを連れ、
丹陽まで工場見学とビジネスマッチングを行う(手前が筆者)
上海市工商業聯合会を日立上海支店長に紹介
(右から2人目が筆者)
2019年1月、ABICからの案内を受け、独立行政法人中小企業基盤整備機構の中小企業アドバイザーとなって以降、中国進出・貿易発展の相談案件はそれほど多くはないが、この3年間の出来事は多く、皆さまと共有させていただく。
厳しい時代に成長があり、望遠鏡の精神が必要
政府や総合商社の望遠鏡のような役割のおかげで、中小企業は長年、顕微鏡のように得意な分野に専念して成長してきた。ここ数年、米中対立、サプライチェーン再編、またコロナ情勢の影響を受け、休眠休業する企業がある一方、望遠鏡のような先見性を見いだし、成長を遂げる中小企業も少なくない。
バリューチェーンの戦略的配置と国際情勢の見極め力は総合商社のノウハウ、またメーカーに対する存在価値である。ただし、IT・IOTの発展に伴い、総合商社自身の位置付けも再整理される中、中小企業は顕微鏡のような匠の精神だけでは生き残れなく、望遠鏡のような視野やマスコミを超える洞察力も必要になってきた。とりわけ中国市場を狙うには、中国本土、中国企業にこだわらなくてもよいとは、東南アジアで成長を遂げる某経営者の経験談。一方、環境やカーボンニュートラルへの米中共通点もあり、それは一つの良い切り口かもしれないと思う。
RCEP発効後、域内の企業進出と輸出増加を期待
2022年1月より、世界のGDP・人口のほぼ3割を占める経済圏RCEP(地域的な包括的経済連携)協定が発効する。日本最大貿易相手国の中国、3位の韓国と初めて経済連携が事実上確立され、域内の企業進出と輸出入は容易になる。日本から中国への完成車関税はMFN(最恵国待遇)15%を据え置くが、部品では65%からゼロになることで、完成車メーカーのコストダウンが図られ、東南アジアの自動車サプライチェーンは大きく統合される。中国市場向けの拡声器、ビデオ、メモリーなどの電子製品は即時にゼロ関税となり、家庭用電動機器や電気生活用品はこれまでの関税20-30%から8%台に大幅引き下げ、中国市場での価格競争力が高められる。
中小企業にとっても関心の高い農林水産分野では、中国市場のシェアはさらに拡大される。清酒、ウィスキーや、ホタテ貝、パックご飯などの関税は段階的に引き下げられ、最終的にゼロとなる。これらの製品は全て日本の独占的な生産が特徴で、中国製の同業他社への被害も心配なく、日本料理屋、和風バーなど関連業種の繁栄、就職増、消費者への満足度アップも期待できる。
私としては今後、より多くの人々がRCEPの恩恵を実感できるように意見交換、助力助言をしたいと考えている。特に農林水産分野、また脱炭素化とRCEPの相乗効果によるビジネスモデルの新規創出に注力していきたい。
先行きの不透明な中、IT・IOT 技術を活用
ここ数年の販路支援で、Teams、ZoomなどのWeb会議がよく行われている。ただ、ビジネスマッチングができたとしても、中国企業の現地工場の見学、監査ができず、成約までは経営者の心配、危惧が随分多く見られる。その場合、相手企業のビデオ作成、またIT・IOT技術を活用するのも一方法だと思う。
1990年代から、日本からの発注業務で北京、上海、大連などは日系IT企業の集積地となっている。これからは日本より先行した中国でのDX(デジタルトランスフォーメーション)実践経験を日本の製造業改革、デジタル社会構築に活用し、さらにビジネス発生源としての役割を果たして行けるのではないかと中小企業、業界、また領事館に提言している。揚子江デルタ、珠江デルタは中国DX実践の最前線、また一番豊かな地域で、参考価値とビジネス機会は大変多くあり、IT・IOT技術の活用と普及は中小企業にとって良い出番になることは間違いないと確信している。