活動会員のレポート

ABICを基に「NPO・NGO運営のポイント」を語る

  ABIC参与・コーディネーター 宮内 みやうち 雄史 ゆうじ (元 三菱商事)


講義の様子

 2000年4月にABICは発足した。それに先立つ1年間、日本貿易会が設立した「NPO研究会」で検討を積み重ねた結果であった。その研究会の主要メンバーで議論をリードした、いわばABIC生みの親ともいえる寺島実郎さんが、現在会長を務めている一般財団法人日本総合研究所から、「NPO・NGOのマネジメントと具体的な活動」についてABICに講師派遣要請があったのは2021年11月、講義は3ヵ月後の2022年2月中旬とのことであった。企業の中核人材を対象とする「超高齢社会を生き抜くための『知の再起動』キャリア・デベロップメントプログラム」という全11回の講座の1コマである。
 私は、ABIC設立とともに商社から出向して3年間、初代の事務局長を務めた。その後上海、北京と11年間を中国で勤務した後2015年に帰国、再びコーディネーターとしてABICに戻る機会を得た。現在、小中高校での国際理解教育、研修事業への講師派遣を担当している。そういった経緯から、このNPO・NGOについて講ずる役割を担うこととなった。
 2020年に「ABIC20周年記念誌」が、過去には「10周年記念誌」も発刊されている。題材はある。それをNPO・NGO論として再度まとめ直してみるのは大変面白そうだ、というのが直感であった。そこで、まずABICウェブサイトに張り付けてあるインフォメーションレターに全て目を通してみることにした。2000年8月の初号から年3回、最新は第62号で、毎号何件かの活動会員体験談が掲載されている。興味深そうな、特徴のありそうな活動を行った会員に寄稿を依頼すると、断る人はほとんどいなかった、のみならず、皆さん大変熱意を込めて原稿を仕上げてくれているのを知っていたので、これこそ宝の山だと感じていた。
 実際、会員各位のレポートに、いつの間にか読みふけってしまったりしながら、22年間のABICの活動に思いをはせることとなった。ビジネスパーソンOB・OGたちが、さらなる社会貢献を目指して次々と参画したこれらの取り組みは、いずれも捨て難い内容ではあるが、講座用資料作成には、その中からわずかな事例をピックアップする作業が必要であった。私の独断と偏見に基づくものとは意識しながら、以下の事例を取り上げることにした。NGOによる東ティモールからのコーヒー貿易支援、スマトラ島沖地震での政府の緊急医療隊随行通訳、東大阪市で小規模製造業企業の販路開拓、恐竜のむかわ町での地域商社設立、日本一人口の少ない大川村の地鶏販売支援、見本市で外国企業の商談通訳、別府にある立命館アジア太平洋大学での講義、小学校でアゼルバイジャンについての授業、東京・兵庫の国際交流館での留学生支援バザー、国際スポーツ大会での通訳ボランティア、気仙沼市での技能実習生への日本語教育。
 そして、そうした支援や協力活動を行ったさまざまな分野、NGO、NPO、地方自治体、中小企業、大学、小中高校、留学生、国際イベント、外国人労働者などの最近の状況について調べ直してみた。日本は継続的な少子高齢化により、多くの地方で人口が減少を続けており、改めて社会・経済の活性化、新たな地域おこしが必要となっている。女性、高齢者、外国人の力の発揮が喫緊の課題でもある。ABICはそうした点で、パイロットとアンテナの役割を果たしてきたと総括できるし、日本社会でNPOが課題解決に取り組む余地は一層広がっている、というのが私の感じた結論であった。
 講座の参加者は主に30-40代の企業の中堅社員20人余り。それでは、皆さんに向けて何を訴えるのか、思案の末2点を提案することにした。一つは、企業として「会社発のNPOを設立」すること。もう一つは、社員個人として「ワークインライフの一環として、何らかのNPOに参画し活動」することである。
 思い返せば、事務局長時代に知り合うことのできた、難しい活動にも勇躍取り組んでいった会員の面々も、今や故人となられた方が少なくない。その思いを継承しつつ、今後も、企業で働く人たちにとってNPOがより近い存在に、また、NPO活動への参加ハードルがより低いものに感じられるよう、さまざまな機会に訴えていきたいと改めて感じた次第である。