私とABICとの関わりは、ABICで活動していた先輩の紹介によるもので、35年間勤務した三井物産を2008年末に退職し、2009年に始まった。過去の職歴からABIC活動のキーワードは、「海外貿易」「コーヒー」「外国語=英語、ポルトガル語」「海外駐在=ニューヨーク(米国)、ロンドン(英国)、サンパウロ(ブラジル)」などである。
一つは、大学の非常勤講師としての活動で、「コーヒー」「ブラジル」というテーマで講義を担当した。春と秋の学期で、全部で4-5校、90分の講義を合計10-20回ほど行った。三井物産在勤中も、社内で貿易実務などの講師経験はあったが、若い学生たちに話をするということで、どこまで専門的な内容を含めるか、また、どのような体験談に興味をもってもらえるかなどを考えて資料や内容を準備するのが楽しかったことを記憶している。
結果としては、自分の予想を超える学生の反応に驚くことになった。特に、ブラジルでの関係子会社社長としての経験談は、学生にとっては、ブラジルという見知らぬ国と文化、また、ビジネス実務での出来事が興味深く映ったのかもしれない。学生たちのみずみずしい感受性と、強い探求心に驚きと、感銘を受けた貴重な体験だった。
もう一つは、2010年当時、日本に30万人以上いたブラジルからのデカセギ労働者の子供への教育支援活動である。日系ブラジル人のデカセギの人々は、栃木、茨城、山梨、愛知、滋賀など、数多くの地域で働いていており、その土地でコミュニティーを形成していた。彼らの問題の一つが子供の教育であり、彼らはコミュニティー内にブラジル人学校を設立して子弟の教育に当たったが、日本の法律上の「学校」としての登録がなく、地方自治体からの補助金を得られなかった。学校登録を勧めたが、さまざまな制約、条件があり困難とのことだった。そのため、学費は高く、親の負担は重くなる。この状況下、三井物産が基金を拠出して、現場での実務をABICが請け負うという活動があり、それに参加した。各地域に点在するブラジル人コミュニティーを訪問し、ブラジル人学校の運営者と話し、どの生徒を援助対象とするかを決める仕事であった。援助を受けた生徒には、出席日数、成績向上などの条件達成が義務付けられたが、ほとんどの生徒は日々努力を重ねてそれらを達成していたと記憶している。
さまざまなブラジル人コミュニティーを訪問して分かったことは、この仕事のほとんどはポルトガル語が必要であること、デカセギの人々の日々の生活への真摯な姿勢、日系移民の子孫ではあるが、彼らの母国はやはりブラジルであることなどが今も強く印象に残っている。2003年から5年間仕事をさせてもらったブラジルへのわずかながら恩返しができたかと感じた。
2009年での活動後、2010年からある菓子メーカーで仕事を始めたため、ABICでの活動はしばらく中断した。2020年コロナ禍の中、ジェトロ千葉案件として、ハワイコーヒー豆の輸入業務の手伝いで活動再開となった。菓子メーカーでの仕事は2021年11月で契約満了となり、2022年3月には幕張で開催されたFOODEX JAPAN 2022(第47回 国際食品・飲料展)のブースでの英語通訳の仕事をした。長いブランクを挟みながらもこうして活動を継続できたことは、ひとえにABICならびに関係者の方々のおかげであり、心より御礼申し上げたい。これからも自分のできる分野で手伝っていきたいと思う。
FOODEX JAPAN 2022(第47回 国際食品・飲料展)の様子