活動会員のレポート

目指せ!「紙切り」名人

  山浦 やまうら 信幸 のぶゆき (元 国際協力機構)


ニジェール地方の小学校建設現場(無償資金協力)

日本語広場の授業風景

1.ABIC日本語広場との出会い
 私は5年前に退職するまでJICA(国際協力機構)で開発途上国との技術協力、後には資金協力にも従事した。ちなみに、最初の配属は研修事業部で、浜松町の貿易センタービルでの「貿易振興セミナー」を担当、また、2年間通商産業省(当時)の経済協力課に出向した際には南アジアの円借款を担当し、商社の方々に大変お世話になった。
 在外勤務は20年弱、アジア4ヵ国、アフリカ3ヵ国(いずれも仏語圏)。同世代の皆さまと同様に私たちの世代では10代の頃は外国へ行くこと、ましてや滞在することは夢のまた夢であったので、とても得難い時間を過ごすことができた。
 退職後、地域のコーラスに参加したが、そこで東京国際交流館の日本語広場(以後「広場」)で教えられていたABIC会員講師にお会いし、この活動を紹介していただいた。若い頃は学校の先生になりたいとも思っていたこと、退職直前まで在外勤務が長かったため退職後は日本に暮らす外国人に親近感を強く持っていたこともあり、早速ABICの日本語教師養成講座に申し込んだ。そして講座終了後2022年の4月から広場での講師経験を始めさせていただいたところである。

2.目指せ!「紙切り」名人、林家正楽
 広場では来たいとき・時間のあるときいつ来てもいいので、教える側からすると今日は何人来るのか、誰が来るのか、その人はこれまで何を学んだのか、どれくらい理解しているのか、今日は何を学びたいのか等がその場にならないと分からない。つまりちょうど寄席でお客から「お題」をもらってその場ですぐに切り出す「紙切り」の名人にならなければならない。そのため、こちらとしては全くの初心者向けの最初のあいさつや1-10の数字から基礎的な文法、さらにひらがな・カタカナなど多岐にわたる課題の準備が必要になる。加えて参加者が複数いた場合、学習歴が異なれば山の分校の複式授業になる。おのおのに課題を決め別々に要点を説明し、練習をしてもらう。できれば参加者同士でロールプレーをして交流の機会もつくる。
 というわけで名人への道は遠くて険しいが、毎回授業が終わるとささやかな達成感と新たなアイデアも生まれるので、次の週を楽しみにしている。

3.開発途上国の豊かさと活気
 広場の参加者は開発途上国の人が多い。日本で報道される開発途上国のニュースといえば、紛争、テロ、自然災害、病気、難民、貧困がらみのもの、あるいは十分に(過剰に)脚色・編集された旅番組が多い。確かに先進国にみられる多品種・大量生産・大量消費、広域流通といった経済面、あるいは教育・医療・社会福祉分野における政府の関与などとはだいぶ異なることが多い。しかし、どこの国であってもこれまで長い歴史の中で培われてきた経済制度、社会制度、伝統文化、セーフティネットがある。また各国間や地域間での経済的、社会的なつながりが重層的に発達している。例えば私の任地の一つにアフリカのニジェールがあった。サハラ砂漠の南縁の資源に乏しい国であるが、飢饉ききんのときの各部落内での相互扶助体制や周辺国に住むニジェール出身者とのつながりが出来上がっている。また、アフリカの伝統医学会の大会が開かれたこともある。
 これまでの所与の条件も踏まえた各国の広場の参加者は、みな非常に優秀で活気にあふれ、これからの国の発展に大きく貢献し得る人材ばかりである。この広場でささやかではあるが未来のある彼らとの交流を楽しんでいきたい。