支援企業での会議の様子(右が筆者)
私の最初のABICを通じての支援活動は、企業支援ではなく教育であった。
2020年5月に突然ABIC事務局(大学等講座グループ)より、ABICが受託している関西学院大学のリレー講座「現代の総合商社」の人事パート1コマを引き受けてもらえないかとの依頼があった。
現役時代に人事関連業務に30年弱携わっていたが、その時点で人事部を離れて既に7年が過ぎており、躊躇はしたものの、自分の経験・キャリアで少しでも世の中への恩返しができればとお引き受けしたのを記憶している。(当該講座は現在も継続中)
翌2021年3月ごろ、事務局(自治体・中小企業支援グループ)より「高知県移住促進・人材確保センターの依頼に基づき、同県の中堅企業より人事制度構築サポートのニーズがあるが、関心はあるか」との問い合わせを頂いた。
高知県は人口が68万人強と江戸川区1区と同程度の規模しかなく、県内企業の従業員規模でも中小~中堅レベルがほとんどであることから、私の現役時代の経験・知識が果たして役立つかどうか、不安はあったものの、現実に困っている企業がある以上、自分にできることがあればチャレンジしてみようと思い、支援をお引き受けすることとした。
最初にお引き受けした企業は、100人弱の電機・太陽光事業の中小企業であり、人事評価制度の構築が主たるミッションであったが、その後、高知県移住促進・人材確保センター経由の口コミによるお声掛かりも増え、現在では、食品の6次産業(生産・製造・販売)企業、健康情報事業企業、エネルギー(石油・ガス)事業企業3社の人事関連業務を中心とした顧問を務めている。
3社はいずれも、100-300人規模の中堅企業であり、支援内容は「能力主義に基づく報酬・資格・評価制度の構築支援」「企業理念・ビジョン・ミッション・バリュー・クレドの制定、定着支援」「人事部門の経営支援機能強化」および、それに付随するコンサルティング業務等である。
もちろん、私の出身企業の人事制度の内容・コンセプトをそのまま適用することは、不可能というよりむしろマイナス面の方が大きいが、組織の規模が異なっても「どうしたら社員のMotivationが上がり、社内が活性化するか」「経営のメッセージはどうしたら社員に伝わるか」「社内の求心力、社員の帰属感はどうすれば高まるか」等、全ての人事制度構築の根幹のフィロソフィー部分は共通であり、そのための効果的なアプローチ・手法には相通じるものがある。
一般に、地方の新興中堅企業は、効率性の観点からも設立当初は人事面も含め、経営全般を社長がマネージし、会社を回しているが、業容の拡大に伴って社員数が100人を超える規模になると、個人商店的な人事管理では会社が回らなくなり、経営管理としての人事制度構築の必要性を意識するようになる。
ところが、人事担当部署を設置しても、ほとんどの企業では、勤怠管理を中心とした労務管理、給与・税務・社会保険等の人事実務中心の人事管理(Personnel Management)に留まり、人材育成・社内活性化・経営補佐(提案)等、経営が人事部署に期待する機能にはなかなか手を付けるには至っていないのが実情である。
それらの課題に対し、いざ取り組みを開始しようとしても、「どうしたら良いか? どこから手を付けたらよいか?」「どういうゴール設定を考えたらよいか?」「そもそも担当できる人材がいない」といった状況からなかなかスタートを切ることもできず、その中で「社内のコミュニケーションがうまく機能しない」「優秀な若手人材の採用が思うようにいかない」「組織を任せられるミドルマネジメントの育成が進まない」といった経営課題が共通して徐々に顕在化してきているように思われる。
人事戦略は経営戦略と「車の両輪」であることから、経営的視点から人事制度の構築を考え、人材を経営資源と捉えた「HRM(Human Resource Management)」の観点からのアドバイスを行うよう心掛けている。
私のこれまでに培った経験・ノウハウ・知識が、かかる課題の解決に少しでも役立ち、企業のさらなる発展に寄与できるようであれば望外の幸せである。第二の人生において、こういった機会を与えてくれたABICの活動に改めて感謝したい。