オンライン授業のビデオ収録
講義の様子
私とABICとの出会いは2015年秋にさかのぼる。ABICの大学講座担当コーディネーターであった三井物産OBの大先輩から、三井物産出身の講師が少ないのでやらないかと声を掛けていただいた。当時はまだ現役であったが、会社で経営環境分析の仕事をしていたことからお役に立てればと引き受けた。以来ABICにはさまざまな講師の機会を頂き大変感謝している。その経験を幾つかご紹介したい。
一つ目は、青山学院大学の「国際ビジネス」で今学期も教壇に立っている。2004年から続く歴史のあるABIC提供講座であり、全学部の2-4年生を対象とする。「国際ビジネスと海外事情」は青山キャンパスでの英語による講義、「国際ビジネス入門」は相模原キャンパスの日本語講義と違いはあるが、複数のABIC講師が得意な地域、産業を分担し講義する形式は共通で、私はビジネス環境の全体俯瞰とエネルギーを担当している。全体俯瞰では、「ビジネスとはビジネス環境に対する産業的解決策」であることをメッセージとして、ウイズコロナ、米中対立、脱炭素、高齢化、DXなど国際ビジネスが直面するビジネス環境を取り上げて説明、各論に入る前の学生の頭の整理を試みている。また43年にわたる商社マンとしての自己体験をサンプルに、冷戦終了、リーマンショックなど自身が直面したビジネス環境変化と、その際に取り組んだビジネスを紹介し、ビジネスとビジネス環境の関係性をより具体的に説いている。毎回学生からリアクションペーパーが任意で提出されるが、的を射たコメントと真剣な質問は授業を進める上でとても良い材料となっている。
二つ目は、青山学院大学 地球社会共生学部で2018年度に担当した「アジア経済入門」である。担当教授のピンチヒッターとして15回の講義を引き受け、シラバス作成に始まり、課題レポートの採点、単位の授与といった一連の教職を経験した。受講の学生は東南アジアへの留学を翌年に控え、大変熱意があった。実務家教員としてこれに応えるべく、直前にインドネシアに駐在していた自らの土地勘、ビジネス勘と、現場にいるアジア店長の協力も得てビジネス目線での最新のアジアの姿を伝えた。約100人の学生を10グループに分け、それぞれアジアの10ヵ国を担当させ、国の強み、弱み、そこで行いたいビジネスを発表させ、さらにどの国の成長性が高いかを互いに議論させた。ちなみに学生はベトナムを選んだ。コロナ禍の前であり、対面でさまざまなアクティブ・ラーニングを実践できたことは良い思い出である。
三つ目は、2021年度の東洋英和女学院大学大学院においての「ビジネス—企業と国際協力」である。5人の同僚と分担する講座であるが、実社会を知る学習意欲の高い少人数の社会人学生を対象とするクラスで、密度の濃い双方向の授業ができた。特にSDGs時代における総合商社の役割について、教壇で得た自らの学びも大きく、来年(2023年)度の授業での議論が今から待ち遠しい。
これらの経験を通じて、ABIC講座は講師と学生にとりウィンウィンだということを改めて感じる。大学からは国際社会での現場経験を持つ実務家教員への期待が大きい。理論だけでなく、一人一人が実践してきた国際ビジネスの経験と、商社が今の国際社会にどのような価値を提供し、未来に挑戦しているのかの実例は、国際ビジネスに興味を持つ学生に気付きと刺激を与える。また講師は、学生に向き合い真剣に教え、率直な反応を得ることで、一人で学ぶよりはるかに多くの気付きと刺激を受け、学びを深めることができる。ABIC会員の皆さんには、気負うことなく教壇に立つことをお勧めしたい。