活動会員のレポート

大学の実務家教員になって

  中西 なかにし いさお (元 豊田通商)


オンライン授業の合間に

大学の外観

 豊田通商で30年間勤務し、役職定年を機会に2016年に早期退職し、中小企業診断士として独立した。退職に際して、人事部よりの勧めもありABICに登録したところ、直後に企業研修のお話を頂いた。独立後間もない仕事等のない時期に大変ありがたかった。
 その後、いくつかの企業と顧問契約を結び2018年に法人化し、なんとか安定してきたところで、ABICより大学の非常勤講師のお話を頂いた。驚いたことに、担当するのは理工学部ということで、数学や物理が大の苦手の私は不安を覚えたが、大学の方から「専門に凝り固まった理工学部の学生の視野を広げるような授業をしてほしい」ということで「国際理解概論」という科目のテーマを頂いた。当該科目については、同大学で経済学部の学部長をされている方が商社出身というご縁で、ABICに話があったと聞いている。初めての経験であるが何とかシラバスを書き上げると、ABICからのご紹介ということもあり、無事採用となった。
 「国際理解概論」では、全15回のうち、初めの半分を中国・米国・欧州・日本の4極を、PEST(政治・経済・社会・技術)の切り口で分析することに充て、後の半分はグローバル化を進める企業の研究と、グローバル化の下での働き方について、私自身の経験を踏まえてお話しし、学生に考えてもらうという構成である。最終的には世界情勢と企業活動を知り、自分としてこれから何を学び、どんなキャリアを目指すかを修了論文にするという講義を実施している。
 2019年9月より非常勤講師としてスタートし、2022年で4年目を迎えるに至った。初年度は50人程度の学生を相手に、以前通っていたビジネススクールでの授業の進め方を参考に、グループワークを取り入れた講義を行った。学生からはまずまずの反応を得ることができたと、少し安心していたところでコロナ禍が始まった。2年目の2020年はコロナ蔓延中の最も不安な時期で、グループワークはおろか、対面授業もできない場合もあり、不慣れな機器を使いながら、画面に向かってしゃべるというオンライン授業も経験した。企業の仕事で限られたメンバーでのオンライン会議にはすぐ慣れたが、一対多の一方通行のオンライン授業は難しかった。オンライン授業の場合は、学生は顔出しせず、また人数が多いので反応をつかむことは難しく、試行錯誤の毎日であった。そのうち少し慣れてきて、オンラインシステムのチャット機能を使いながら、限定的ではあるが双方向での授業もできるようになったが、対面のライブの良さというものを再認識した。2022年は、全面対面授業で始まり、受講者が100人を超え盛況となり、こちらもやる気満々で取り組んでいる。やはりライブで、大勢のお客さん(学生)が入ると、余計にやりがいを感じる。このような経験は、なかなかサラリーマンでは味わうことのできない貴重な経験である。
 また学生と議論することで自分の視野も広がり、また講義の準備をすることで学び直しにもなり、企業でのアドバイザーの仕事にも役に立っている。そして学生から、「ニュース番組を見るようになりました」「企業の戦略や業績に関心を持てるようになりました」「就職先を考えるのに役に立ちました」といった何らかの成長に関わるメッセージを直接もらうことは、今までのキャリアでは得られなかった喜びであり充実感を感じている。
 最近は教育機関でも、アカデミックキャリアを持たない実務家教員の採用を増やしているといわれているが、その一方で希望者も多くなかなか大学の非常勤講師になることは難しいようだ。そのような中で、素晴らしい機会を与えていただいたABICに感謝申し上げたい。