活動会員のレポート

コロナとの戦い

  上井 うえい たかし (元 三菱商事)


地方政府訪問(中央が筆者)

工場視察(後列右から5人目が筆者)

 2019年の仲秋、20年以上駐在していた中国から戻り、東京でのリタイア生活をスタートしたところ、三菱商事時代の旧友の勧めでABICに登録した。体が健康なうちに、日本社会への「恩返し」ができればと思っていたところであり、渡りに船であった。
 ただ、思いがけず、翌年(2020年)早々コロナが来襲し、旅行などの計画は全てキャンセルになった。豊かな第二の人生に憧れていたが、一瞬で白紙に戻ってしまった。無益に時間が過ぎる日々であった。
 転機になったのは2020年末にABICから連絡が来たことである。「某大手自動車部品会社より誘いがある」とのこと。Online Meetingおよび面談を経て、2021年3月から本社にてオリエンテーションなどを受け、8月に「矢崎(中国)投資有限公司」にOn Boardした。
 「防疫優等生」といわれていた上海に到着してみたら、丸2週間の隔離を余儀なくされた。郊外の隔離施設で部屋から一歩も出られず、一日三食はドアの傍らにある椅子に置いた弁当。ノック後、取って食べるという状況であった。朝晩に1回ずつ検温し、2週間で4-5回のPCR検査を受ける。PCでメールのやりとりやネット会議参加などの仕事はなんとかこなし、SNSで同僚や友とのコミュニケーションにも支障がなかった。
 隔離完了後に出社して約半年間、ほぼ正常に勤務ができたが、2022年3月末には上海のロックダウンに遭遇した。最初は、4日間で終わるという通達であったため、余裕をみて買いだめをしたが、思いがけず2ヵ月以上続くこととなった。1週間も持たず、わが家の冷蔵庫は空っぽになった。同僚に状況を確認したところ、食料品が全くなくなった人も出始めた。緊急に所在区の副区長に連絡し、日本人駐在員のリストを送付。直ちに区政府から食品配達が行われた。その後、仕事を優先的に再開する企業リストに社名を乗せるため、上海市商務局傘下の上海市外商投資協会や合作パートナーの協力も得られて実現した。
 6月に入ってやっと仕事は全面回復するようになったが、PCR検査の日常化や各地域政府の防疫対策強化によって、移動や出張などに大きな支障が出ていた。1日の出張のために、3日前の前乗りを余儀なくされた。なぜなら3日の隔離後、PCR陰性が証明されて初めて行動できるからである。
 しかし冬に入って、各地で非常に厳格なポリシーの下でも感染コントロールができず、「全面開放」にかじを切った。12月中旬から、会社内で80%以上が感染し、皆1週間~2週間の休みになってしまった。
 2022年の「ゼロコロナ」と「全面開放」で企業も個人も大変な1年だったが、その状況下でも矢崎中国は、困難を乗り越えて、多大な努力を惜しまなかった。
 まず、「現地化」をはじめとする改革をスタートさせ、生産製造拠点の「コストダウンと効率化」を考案し、パイロット・プロジェクトを推進した。その結果、目に見える収益改善を実現した。さらに中国新戦略を定め、従来の日本車を中心に外資系車メーカーへ納入するビジネスモデルから中資系車メーカーとのビジネス開拓へのシフトもスタートした。中国にある部品サプライヤーとして、NEV車(新エネルギー車)の世界トップの地位に立つ中国企業は無視できないからである。
 2022年末には各地に感染が広がっているにもかかわらず、矢崎中国のチームは広州市で開かれた「2022年広東香港マカオ大湾区グローバル投資大会」に出席し、省政府トップへの直接対話にて中資車企業とのパートナー関係構築のサポートを要請した。
 新年に向かって矢崎中国の新しい取り組みへ貢献したい。それとABICにこの貴重な出会いをつくっていただいたことを感謝したい。