活動会員のレポート

教壇は学び直しの場

  中野 なかの 教子 のりこ (元 P&Gファー・イースト・インク)


オンライン授業の様子

ESOMAR(欧州世論・市場調査協議会)のシンガポールでの講演の様子

 人生100年時代というが、100年人生の中間地点を折り返した私に、何か今までの経験を生かして社会貢献できることはないか、そう考えていたときに、2017年末にABICから文化学園大学の「Global Management」の講座のお話をいただいた。この文化学園大学の講座を皮切りに、2021-2022年まで立命館アジア太平洋大学(APU)の「経営戦略論」、そして2022年からは一橋大学の留学生向けに英語で「Japanese Business」の講座を担当する機会をいただいた。
 それまでは、社内外の研修講師やカンファレンスでの発表を英語や日本語で行った程度で、学生向けの授業を連続的に行ったことがなかった。従って、最初は学生の反応が予想できず、自宅で何回も授業のリハーサルをしたものだった。今でも初回の授業は緊張するものだが、2回目以降の授業では学生の反応も分かってくるので、学生の様子を見ながら話の仕方を変える等の対応ができるようになった。
 授業は、私が「教える」というのはおこがましいので、どの授業もグループディスカッションに約50%の時間を費やし、学生同士が考え、気付き、そして学ぶ形で進めている。そうはいっても基礎的な理論は押さえておいた方が良いと考え、学部生対象の授業ばかりだが、MBA時代のテキストを買い直し、Google Scholarで文献を調べたりして、授業の資料を作り込んできた。調べてみると、MBAでは学ばなかった新しい理論が幾つも出てきており、「古いことにこだわっていてはだめだ、戦略は進化している」と、痛感することが多い。
 2020年からはコロナ禍の影響で、授業はすべてオンラインで行われた。大学によって使うデジタルツールが異なるため、慣れるまでは試行錯誤の連続だった。だが、使い慣れてしまうと便利なもので、オンライン上で出欠確認、オンラインクイズを出題等、デジタルツールを駆使した。ただし、オンライン授業は良いことばかりではない。APUのオンライン授業では、受講生数が100人以上だったため、通信トラブルで何度も授業に入り直した学生がいた。また、グループワークにしても、対面授業のように各グループのディスカッション状況を肌で感じ取ることができなかったのは、少し残念だった。
 一橋大学では、2022年春から対面授業に切り替わったため、マスクを着けながらであるが、インタラクティブに授業を行うことができた。対面授業では、教室を動き回り、黒板を使うことができるので、授業が単調にならず、学生の雰囲気によって臨機応変に進め方を変えることができた。学生にとっても、グループワークは楽しいようで、授業中は静かだったのに、グループワークでは急に活気が出た。肌で学生の活気を感じると、こちらの気持ちも高まる。対面授業の良い面を再認識することとなった。
 留学生のグループワークからは、私自身の「気付き」があった。あるグループは、日本で成功している外資系企業について、いかにその企業が過去の日本市場での失敗から学び、戦略を変えて日本での事業の成功につなげたかを分析して発表した。また、グローバルチームビルディングの提案では、日本人とドイツ人がお互いの国の料理を作って競い、最後にビールで乾杯してチームの結束力を強める提案をしたチームもあった。
 ただ、いつも気になるのが、「私の授業は本当に役に立っているのか? このやり方で良いのか?」という点である。12月の授業終了直後のこと。駆け寄ってきて、「Thank you. This class was one of my favorite classes.」と言ってくれた学生がいた。ほっとした。いや、ほっとばかりもしていられない。次の授業も役に立つ内容にしよう。意識は次に向かっている。