活動会員のレポート

ドイツ語の講師を終えて

  友永 ともなが 隆浩 たかひろ (元 三井物産)


オンライン講習の様子

ドイツ語テキストの一部

 60歳の定年退職を前にしてこれから何をしようかと考えた揚げ句、好きな仕事をいろいろしたいと思い、選択肢の一つとしてABICに登録をしてみることにした。現役時代に日本貿易会の委員としてお世話になっており、ABICの活動は当時より関心を持っていた。ABIC登録のキーワードとして駐在経験ドイツ10年・ベルギー5年、得意分野は環境・リサイクル、語学はドイツ語を強調しておいた。気長に待っている間、環境・リサイクルのコンサルティングの合同会社を設立し、少しずつ仕事が回り始めていた。その頃ABICより連絡をいただいたのが、ドイツ語の講師の話である。今までのサラリーマン人生で語学の講師の経験はまったくなく、どうしたものかとやや逡巡しゅんじゅんしたが、せっかくABICからいただいた話でありお請けすることに決めた。私のドイツ語との関わりはやや変わっており、高校の授業でドイツ語を学び、大学受験も選択した外国語がドイツ語であった。大学在学中に1年ドイツで過ごし、ドイツ駐在時代は、現地企業とはドイツ語で仕事をしていた。つまりドイツ語が好きなのである。
 ご依頼をいただいた企業は、船舶関連メーカーでドイツの企業を傘下にし、ドイツ駐在を予定している社員、出張が多い社員を対象に、現地での日常会話、生活に必要な情報等の講習を希望されていた。語学研修を手がける会社からABIC経由でこのお話をいただいた。私はデュッセルドルフに約10年駐在しいろいろな経験をさせてもらった。ドイツ語のみならず、実際ドイツの生活で役に立つコツを伝授できると思い、ドイツ語講師としての意欲が湧いてきた。
 しかし、ドイツ語を人に教えることはまるで初めてである。どのくらい理解してもらっているか不安な面もあるが、まずは慣れ親しんでもらうことを優先した。自分が新入社員の頃、疲れ果てた夕方から会社の会議室で英語研修を受けたことを思い出し、忙しい仕事の合間に時間を割いて講習を受ける身になってみると、宿題やテストはせず、気楽にドイツ語に親しみ、ドイツの文化や習慣をなるべく伝え、ドイツを好きになってもらうことに重点を置いた。
 ドイツ語講習は2022年2月1日から2023年1月末までの1年間を、前半は週2回、後半は週1回、1回1時間で計80回のオンライン講習を行った。受講者は4人、ドイツの子会社との仕事に従事している方々で、ドイツ語を習うのが初めてである。アーベーツェー(ABC)、冠詞・不定冠詞、男性・中性・女性名詞等々文法の基本から始め、タクシー、ホテル、アパート、レストラン、オフィスで使うドイツ語やドイツ人との日常会話、また自己紹介、日本とドイツの違い、ちょっとしたフレーズ等を経験に基づいた例文を作りパワーポイントで繰り返し教えるかたちをとった。講習期間の間でも受講されている社員の方が入れ代わり立ち代わりドイツに出張に行かれ、講習で教わったドイツ語を話せたとの報告は大変うれしかった。
 ドイツ語に限らず、英語圏以外の国に駐在する日本の企業人にとり、その国の言語は生活する上で必要である。商社の海外駐在で現地の言葉を体得した経験者が、その国の言葉や習慣を事前に伝授することは、これから駐在する人に安心感を与えその国について視野を広げて見ることができると思う。商社で務めてきた私が定年後、社会にちょっとでも貢献できるとすれば、日常使うドイツ語や駐在時の経験からのノウハウを次の世代に伝えることかもしれない。