活動会員のレポート

立命館アジア太平洋大学に着任して

  藤田 ふじた 正典 まさのり (元 三菱商事)


別府湾を見下ろす立命館アジア太平洋大学のキャンパス

教室で授業を行う筆者

研究室の近く懇談スペースで学生と討議する筆者

 2023年4月、大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)の教授に着任した。半年前まで、まさか自分が九州で教鞭きょうべんを執ることになるとは想定していなかったが、これもABICとのご縁があったからこそと感謝している。
 私は、大学卒業後、多くの同級生が大学院に進学する中、すぐに就職したので、自分が未経験の大学院への興味から、20年ほど前に主に社会人向けの夜間開講の大学院に入学した。そこは、昼間の勤務先とは別世界の多様で個性的な人たちが集まっている、とても刺激的なコミュニティだった。最初の大学院修了後、さらなる刺激を求めて、気が付けば合計四つの大学院で延べ10年間、さまざまな知識・仲間・コミュニティと交わり続けることとなった。また、学位を取得してゆくなかで、いくつかの大学での非常勤の教員や研究員、学会での理事などを経験させていただき、学生の立場とは異なる視点でアカデミアの世界を知ることとなった。そしてその頃から、将来のアカデミアへの転身も意識するようになった。
 私より先にアカデミアに転身した友人からは、「採用は厳しいので、まずは50校程度をめどに応募したらよい」とのアドバイスをもらい、自宅のある関東圏の大学の教員に応募していた。そんな折、ABICより、APUの非常勤講師のご紹介をいただき、2022年12月から始まるマーケティング関連の授業を担当させていただくことになった。そしてAPU関係者から、APUで募集する常勤教員に応募してみたらどうか、とのコメントを頂き、これもご縁と応募した。数ヵ月にわたる長い審査の後にAPUから、そしてありがたいことに別途都内の国立大学などからもオファーを頂いた。これまで関東圏以外の大学は想定していなかったが、最終的に、学生たちや教授陣の生き生きとした姿と別府湾を見下ろすキャンパスの素晴らしさなどの理由により、APUのお世話になることとした。
 APUは、学生の約半分が100ヵ国以上から成る留学生、さらに教員の約半分も外国人教員で、キャンパス内ではさまざまな言語が入り乱れ、さながら海外の大学にいるようだ。起業意識の高い学生が多く、着任間もない私の研究室にも毎週のように学生が起業相談などにやってくる。
 大学では、担当する四つの授業の準備に追われ、これに研究活動や教授会などの会議出席なども加わって、休む暇がないというのが実情だ。秋からは、さらにスタートアップ・エコシステムをテーマにしたゼミも担当する予定である。商社ではさまざまな部門を経験することとなったが、これらの経験が、上記の社会人大学院生時代に身に付けた知識やコミュニティでの経験とともに、教員としてとても役に立っている。授業では、学生による別府市の産業振興構想への提案や大手メーカー系企業への生産管理改善への提案など、実践的な教育を取り入れている。将来は、学生の発想も取り入れた産学官連携プロジェクトが実現できればと願っている。
 近年、リカレント教育が話題になることが多いが、大学院では、学び直しだけでなく、新たな出会いがそこにあった。さらに、大学教員になった今、学生に自分が経験したことや学んだことを教えるだけでなく、逆に学生から若いエネルギーをもらったり、最新の文化や生活スタイルについて教えてもらったりして、社会人大学院生時代と同様に刺激的な毎日を過ごしている。
 今後も学び続けるとともに、国際性・多様性と起業家精神に富む若い学生たちの可能性を広げつつ、国内外の産官学機関とのネットワーキング・コラボレーションにより、世の中に少しでも貢献できるよう、微力ながらも努めていきたい。