「バングラ・ダンス」を踊ってインドを体験する
クイズでインドを知る
2023年5月、幼稚園児向け国際理解教室の話がABICから飛び込んできた。園児にインドを紹介する企画だという。日本語教師を第二の人生として以来、インドの大学をはじめ学校で教えたり、日本の学生や社会人にインドの話をしたりする機会はあった。在印日本人補習校や、在京のインド人学校で児童を教えたこともある。しかし、園児を相手にしたことはかつてない。園児にインドを紹介といわれても、まさに五里霧中。ただ、幼稚園での国際理解教室という意欲的な企画に惹かれ、挑戦してみることにした次第である。
いろいろ考えた末、世界にはいろいろな国があり、インドの中にもそれぞれ独特の文化や習慣を持って生活しているさまざまな人々がいる、まずはそういうことを知ってもらうことにした。園児ということもあり、画像や活動を盛り込むことも念頭に置いてプログラムを練った。
実施日の1ヵ月ほど前、ABICのコーディネーターの宮内雄史氏と共に東京都中央区の幼稚園を訪れ、担当の先生と打ち合わせた。それに基づき、年少組(3歳児、32名)、年中・年長組(4・5歳児、60名)の二つのグループに分け、インドの紹介とダンスやヨーガを盛り込んだプログラム(年少組20分間、年中・年長組30分間)を作成し、再度幼稚園を訪れて打ち合わせた。そこで、「ナマステ」というあいさつの説明に「南無阿弥陀仏」を引き合いに出すのは特定の宗教に偏るので好ましくない、人口や面積などを数字で説明しても園児には響かないなど、現場の先生なればこその貴重なアドバイスを頂き、とても参考になった。
6月23日の当日、園児が興味を持ち、反応してくれるかどうか心配だったが、杞憂であった。インド服を着てスネーク・ダンスの音楽に合わせて登場し、両手を合わせて園児に「ナマステ」と唱えながら回ると、初めはけげんそうにしていたが、すぐにあいさつだと気付いてくれた。インドのさまざまな民族、カレー料理、動物などをクイズ形式で紹介した後、結婚式でよく踊られる激しくにぎやかなバングラ・ダンスを一緒に踊った。園児たちはもちろん、先生方や園長先生まで楽しそうに踊ってくださったのに励まされ、息切れしながらも何とか踊り切れた。最後は、ヨーガでリラックスした。年長組の園児だけ残って質疑応答があった。「どんな車が走っているの?」「電車はどんなふう?」など、矢継ぎ早の質問攻めに遭い、園児の関心の高さと、活発さに驚かされた。
インドで暮らしていた時、インドの子供たちの目が輝いているのをうらやましく思ったものだが、なかなかどうして、日本の園児たちの目も負けず劣らずキラキラしているのが印象的だった。この園児たちが大人になる頃には、日本の国際化もさらに進んでいるはずだと感じた。日頃は接する機会のない元気な園児たちと一緒に時間を過ごし、とても刺激を受けた。貴重な体験をさせていただいたことに感謝している。
「ナマステ」で始まった国際理解教室は、「ナマステ」で終わった。「おはよう」や「こんにちは」にもなり、「さようなら」にもなる便利なあいさつである。後日、幼稚園の先生から、園児たちが「ナマステ」とあいさつし合っているのを見かけるというメールを頂いた。「国際理解」というと物々しいが、まずは、世界ではさまざまな人々が自分たちとは違う言葉を話し、それぞれ異なった生活をしていることを知り、違いを知った上で共有できる点も探りつつ、お互いに理解しようとすることが出発点ではないだろうか。園児たちが、どこかで出会ったインド人に「ナマステ」と声を掛け、それがお互いに理解し合うきっかけになることを期待する次第である。