日本語教室の様子
紙芝居に挑戦する学習者たち
2023年の年明けにABICから案内を受け、5月から気仙沼市が運営する日本語教室での日本語指導に携わり始めた。
日本語教室にはJLPT(日本語能力試験)に合格したいという主にインドネシア、ミャンマーからの技能実習生が多数参加しているが、7月の試験が終わり一段落したタイミングで、日本文化体験として「紙芝居授業」をやらせていただけることとなった。
「日本語教室で紙芝居? 余興として? レクリエーションの一つ?」と思われる方も多いかと思うが、さにあらず。私は紙芝居を「日本語教育に非常に適した教材」として2013年から授業に取り入れている。
日本が誇る伝統文化「紙芝居」
紙芝居は、日本では誰もが見たことのあるありふれたものだが、実はこの1枚1枚バラバラの形式は日本にしかない。世界中に絵本はあっても紙芝居はないのである。始まりは1930年前後で、100年近くの歴史を持ち、そのユニークさから世界でも「Kamishibai」と呼ばれている。このような点から、紙芝居を日本の伝統文化として紹介する使い方もできるが、それだけではもったいない。なぜなら紙芝居には語学教育に適した特性が備わっているからである。
紙芝居は聴解教材になる
紙芝居は文字が裏にあるので、学習者は演者の日本語を絵に集中しながら聞くこととなる。やや長く語彙
が難しいものが入っていても、絵がありストーリーの起承転結がはっきりしている紙芝居は、見ていて、聞いていて、とても楽しく、非常に集中する。一緒に見る仲間たちと、母語ではない言葉でストーリーを理解できる喜び、共感する体験はとても貴重で、CDをかけて聞く聴解教材にはない魅力がある。そのため紙芝居はとても良い聴解教材になる。日本語教室の初級の学習者も、時には隣の人とストーリーを確認しながら、時には声を出して笑いながら、目をキラキラさせて見ていた。
紙芝居は発話・発音教材になる
紙芝居は芝居であり、セリフで進む脚本はエンターテインメント性がある。紙芝居を紙芝居舞台と呼ばれる木枠で作られたものに入れて演じると、一瞬で場の空気が変わる。観客は何が始まるのか? どういう仕組みになっているのか? と興味津々。どこの国の人も一度見ると、「自分でもできるかも。やってみたい!」という気持ちになる。そうして実際にやってもらうと(ここが一番のポイントなのだが)、皆自然と「観客に分かってもらえるように話さなければならない」「紙芝居はお芝居なのだ」と理解し、おのずと役になりきって発話するのである。普段教科書をボソボソと音読している人でも、紙芝居だと声を変え感情を込めて驚くほどうまく発話する。
今回の気仙沼市でもそうであった。私が演じた後、数人を指名して脚本を読んでもらい、数分後に演じてもらったが、誰もが驚くほど感情を込めてやってくれ、仲間たちからはやんややんやの大絶賛! 笑顔がはじけ、教室内が一つになったのがわかった。
紙芝居で多文化理解ができる
今回私は、インドネシア、ミャンマーのお話を日本語学校の留学生たちと紙芝居化したものを持参し演じた。気仙沼市の学習者も母国のお話が始まると「えっ?」とびっくりし、その後笑顔に変わっていった。紙芝居に描かれる絵は国によって変わる。例えば登場人物の髪型、服の形、色使い、出てくる動物、植物なども違う。そのためそれらを鑑賞することは、それ自体が異文化の理解につながる。これまでの実践でも紙芝居を見た後にさまざまな質問や感想が出てお互いの国への理解が進んだ。
今回は1時間という短い時間だったのでディスカッションまではできなかったが、学習者たちの普段と違う姿、満面の笑顔を見ることができ、気仙沼市の職員の皆さんにも喜んでもらえて、本当に良い時間になったと感じている。
今後も、日本語教師として紙芝居を適宜利用しながら、ABICで日本語を学習している皆さんに貢献していけたらと思う。