囲碁教室風景
世の中、将棋好きの世界のみならず、ルールさえも知らない一般人の間でもスーパーヒーロー藤井聡太八冠一色である。
しかし、囲碁の世界も、棋士の多彩さでは負けていない。近代で一番強かった、と個人的に思っている藤沢秀行さんは破天荒な生活ぶりだった。酒は飲むわ、ばくちで大借金はするわで、その上、口も悪かったが、本当に囲碁に一生をささげた方だった。
現時点で囲碁界最多のタイトル獲得数76個を持つ趙治勲さんは、かつて、あるタイトル戦直前に車にはねられ全治3ヵ月の大けがを負った際、医者から「麻酔が脳に全く影響を及ぼさないとは保証できない」と言われ、麻酔なしで手術したという「うわさ」もあるくらい、囲碁命の方だ。
井山裕太さんは、2016年、2017年と全七冠制覇を合計2回達成し、2018年に国民栄誉賞を受けた。藤井聡太さんほど脚光を浴びなかったのはなぜだろう?
2019年には10歳の仲邑菫さんが特例でプロになった。他にも例を挙げればキリがない。
1960年に始まった「日中交流戦」は、最初のうちはずっと日本が先生格だったが、残念ながら、1990年ごろから日本は中国に勝てなくなってしまった。
ゲームの世界は、今やAIの話題を避けては通れない。コンピューターがチェスの世界チャンピオン、カスパロフに勝ったのが1997年。
将棋はチェスと違って、取った駒を再使用できるという複雑さがあるので、向こう30年はコンピューターも人間には勝てないだろうという意見が多かったが、AIの登場が予想を変えた。2017年に佐藤天彦名人(当時)が敗れ、AI優位が確立された。
囲碁の場合は黒石と白石のみという無機質な石を置き合う捉え所のないゲームなので、コンピューターが人間に勝つのは将棋よりさらに10−20年後だろうと思われていた。しかし、2016年に当時世界最強のイ・セドルさんとAI(アルファ碁)の5番勝負が行われ、4勝1敗でAIが勝つという衝撃的な結果となった。
その後「AI定石」なども出現し、盛んに採用されている。AIの場合、思考過程が分からないので、そこは人間が考えるしかない。現在では囲碁界も将棋界もAIの打ち方を参考にしながら、「人間」対「人間」の勝負が行われている。
さて、私は2022年の9月から東京国際交流館に居住している留学生とその家族を対象にABICの囲碁教室を担当している。ゴルフ友達のABIC会員から頼まれ、かつABICには過去いろいろとお世話になってきたので、引き受けることとし、一年がたった。囲碁教室は約20年前に始まったそうだが、これまで講師の方は2人のみということで、長年のご指導に敬意を表したい。
これまで、中国、韓国、タイ、マレーシア、スリランカ、メキシコ、エクアドルなどから来日した留学生が受講しにやってきた。留学生だから当然だが、短期間の人が多い。教室は月に1回、2時間のみなので、飛躍的に腕が上達することは望めない。せめて、囲碁とは陣地取り合戦の遊びであることや、囲んだ陣地が他人の陣地か自分の陣地かの判別の方法や最後の勝負判定の方法などについて、分かってもらえればなあという気持ちで教えている。従って、細かい「定石」とか「手筋」とか「形」とかは最小限にしている。ただし、基礎は重要なので最初に基本問題を40−50分、その後実践を行っている。実践を行うときは、通常の19路盤ではなく、13路盤にしている。この方が一勝負が早く終了するので、何度もできる利点がある。
自分自身、いろいろな時期に1−2年ずつ飛び飛びにやってきたので、楽しむ程度の実力になってしまっているが、留学生には、ともかくルールと大体の概念をつかんでもらい、初心者は初心者なりに、初・中級レベルの人もそれぞれのレベルに合わせて、囲碁を楽しんでもらえればと思っている。