青山学院大学での講義風景
私のABICとのご縁は、東洋大学広報部のアレンジにより齊藤秀久日本貿易会常務理事・ABIC理事長(当時)とグローバル人材育成を巡って対談した2016年にさかのぼる。背景を申し上げると、2014年、東洋大学は文部科学省からスーパーグローバル大学の一つに選定された。その際の目玉の一つは、大学グローバル化のけん引役として国際学部にグローバル・イノベーション学科を新設することであった。当時私は新学科開設準備の中核として学科のデザイン全般に関与していた。新学科を定員100人、うち日本人学生70人、外国人留学生30人の構成とし、外国人留学生には手厚く奨学金を付与して優秀な学生を招致する傍ら、日本人学生には全員1年間の海外留学を義務付けてグローバル感覚を磨かせ、講義は全て英語で行うとの大枠までは決まったものの、具体的な講義科目の企画と講師選定では苦労が絶えなかった。特に私は学者育ちでなく実務家教員であるため、学生には理論ばかりでなく実務的な科目も学んでほしいとの思いが強かったが、それをどう科目設計に落とし込むかで難航していた。それを救ってくれたのが、齊藤理事長との対談だった。
齊藤理事長とはグローバル人材育成のために東洋大学と産業界とでコラボしようということで意気投合し、ABICの大学講師派遣プログラムを紹介された。水泳の萩野公介選手のオリンピックでの活躍や、陸上の桐生祥秀選手の100メートル9秒台達成、箱根駅伝での快挙等による大学知名度アップが追い風となったのか、ABIC講師陣の方々にはご快諾いただき、2017年4月、新学科発足とともにABIC 講座「International Business Today」が誕生した。ABICからは鶴見邦夫氏(総合商社)、百田功氏(インターネット・ビジネス)、名達博吉氏(自動車産業)、河﨑隆夫氏(企業経営・異文化交流)のベテラン講師陣にオムニバス的に登板願い、私が初回と最終回に講義を担当した。本ABIC講座は、ABICコーディネーター(当時)の坂野正典氏、猪狩眞弓氏を窓口に、私が2022年3月に東洋大学を退官するまで6年間続いた。この間、私は講座の全ての講義に出席したが、他の大学では見られないことのようだ。コロナ禍はあったものの、受講生数は平均30−40人前後で安定的に推移し、ある年などは100人を超えて人気の高さを裏付けた。100人分のレポートを採点する講師の方々の熱意には今でも頭が下がる。また、フィールドワークの一環として鶴見氏にアレンジをお願いしてご出身元の住友商事本社を訪問し、日本のリーディング・カンパニーのオフィス環境や雰囲気を実感できたのも学生にとっては良い経験となったようだ。
東洋大学退官後、2023年4月にコロナ収束祝いでABIC 講座「International Business Today」同窓ランチ会を開いていただき思い出話に花を咲かせた。その後、現在はABICのコーディネーターを務めておられる鶴見氏からメールを頂戴し、青山学院大学のABIC国際ビジネス講座で3コマ教えないかとのお話を頂いた。東洋大学でABICとコラボさせていただいた講座と似た仕立てなので、二つ返事で講師陣に加わることとし、1月に3回目の講義を終えた。受講生数25人ほどのちょうど良いサイズのクラスで、受講態度は大変良い。「講義を遮って質問して構わない」と言っても学生は質問を遠慮しているように見えたが、指名するとしっかりと発言するので頼もしく思った。2024年の箱根駅伝での青山学院大学の快走も小気味よかった。他の大学の見知らぬキャンパスで見知らぬ学生相手に講師を務めるのはとても楽しい。未来を背負う若者とどういう一期一会が待っているのか、とてもワクワクする。2024年度も講師継続が決まったが、それ以降も機会があれば是非続けたいと願っている。