競技会場でチームメンバーと(右から2人目が筆者)
エレナさん&ジャックさんご夫妻
私は2015年より神戸市の地域コミュニティーセンターで日本語サポートのボランティアをしている。定年退職を機に活動の場を広げようと思っていた矢先、知人を通じABICの紹介を受け活動会員に登録した。2024年1月より兵庫国際交流会館で留学生向けABIC日本語広場の初級クラスを担当している。外資系ホテルやメーカーで外国人と接してきた経験を生かし、日本語学習支援のみならず、異文化理解への橋渡しにも貢献できるよう努めている。
2024年5月17-25日に神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会が神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で開催された。104ヵ国・地域から約1,000人のトップアスリートが集結し、日本全国から約1,500人のボランティアが参加した。私も神戸市のボランティア募集(ABICからも周知があった)に応募し、その一員として活動した。期間中は主にメディアセンターサポートとして、(1)世界17ヵ国から来日したメディア関係者の入場受付、(2)プレスセンターでの配布物の補充・整理、(3)競技会場内記者席での補助、(4)競技終了後に選手がメディアの取材に対応するミックスゾーンでの補助などを行った。
今大会では、168種目が実施された。肢体不自由、視覚障がい、知的障がいなど、障がいのある部位や種類はさまざまなため、細かくクラス分けされていた。クラス分けは、例えば「T63」などアルファベットと2桁の数字記号で表記される。アルファベット表記には「T」と「F」があり、TはTrack(走競技、跳躍競技)、FはField(投てき競技)を意味する。数字記号は10-60番台まであり、10の位は障がいの種類を示している。60番台は競技に義足を装着して出場する競技者を表す。1の位は障がいの程度を0-9の数字で示し、数字が小さいほど障がいの程度は重くなる。
各競技の「クラス分け」や、パラ陸上の独自種目である「こん棒投げ」「ユニバーサルリレー」などを知り、陸上競技用車いすの「レーサー」や「投てき台」を実際に見て、パラスポーツへの興味や関心が高まっていったことを思い出す。
本大会のテーマの一つである「インクルーシブな社会の実現」とは、異なる背景や属性を持つ人々が互いに尊重され、平等な機会を享受できる、包括的な社会を築くことである。兵庫県内の小・中・高校・特別支援学校から約3万人の子どもたちが競技場を訪れ、メディアセンターの前を通り過ぎる時には「おはようございます」「ありがとうございました」と元気にあいさつしてくれた。子どもたちが競技を見て感じたことが、学校では先生や友達と、家では家族と話すことを通じて、共生社会へと続く意識や行動の変化のきっかけになっていることを願いたい。
印象的だったのは、ボランティアメンバーには東京オリンピック・パラリンピックのボランティア経験者が多く、彼・彼女らが率先してリーダーシップを発揮してくれたことだ。まさに「ボランティア精神の継承」そのものであった。また現役の社会人も多く、休暇を取って遠方から神戸まで来ている人も少なくなかった。彼・彼女らはボランティア活動を気負いなく、自然にライフスタイルの一部に組み入れているように思えた。「またどこかで!」と笑顔で解散していく姿は、私を含め地元のメンバーにすがすがしい余韻さえ残してくれた。
うれしいサプライズもあった。ABIC日本語広場の受講者のエレナさん(マレーシア)とジャックさん(英国)ご夫妻が参加していたことだ。二人とも語学サポートとしての参加だったが、チームメンバーや大会関係者とは日本語でコミュニケーションを取り、日頃の学習成果をしっかり発揮していた。
アスリートの皆さんの「カッコよさ」にもすっかり魅了されてしまった。障がいがあることなど全く感じさせない躍動感や力強さに加えて、この上なく優しく明るい笑顔が今も私の目に焼き付いている。またボランティアのチームで出会った仲間との温かい交流など、本当に貴重な経験をさせてもらい、心から大会関係者に感謝したい。そして、今回のボランティアで得られた「絆」をこれからも大切にしていきたい。