小中高校国際理解教育グループコーディネーター 坂本 英樹(元 日商岩井)
ラホールでの対面授業
合格鉢巻きを巻いた受講生(中央が筆者)
2023年9月に、パキスタン大使館よりラホールにあるSuperior大学の主にITを専攻する学生向けに日本語を指導してもらえないかとの依頼を受けた。大学側の担当者と協議を重ね、オンラインで日本語指導を行うプログラムを策定し、2024年2月より7月初めまで、週3回、1回2時間の授業を行った。日本語を学ぶ目的は、将来日本で働くために、日本語能力試験(JLPT)N4レベルの日本語を習得することであった。受講する学生は17人、日本時間16時と20時から始まる2クラスに分け、ABIC会員6人が授業を担当した。日本語指導を行うに当たって一番の苦労は、学生がまったく日本語に触れたことがないゼロビギナーであったこと、さらに対面ではなくオンラインで授業を行ったことであった。オンライン授業を始めて1ヵ月半くらいたったころ、学生の習熟度を確認する必要があると思い、GW期間にラホールを訪問し対面で授業を行うこととした。パキスタンへの渡航については、大学側は安全管理に万全を期すということだったが、ABIC内では商社関係者などから情報収集を行うなど慎重な検討がなされ、最終的にゴーサインが出た。
4月26日から5日間、学生と対面授業を行った。学生11人は毎日4時間、休むことなく出席し、習ったことの復習とJLPTの模擬試験を行った。オンラインと違い、学生の表情を見ながら授業を行うことができ、学生からの質問も多く、有意義な5日間であった。最終日には「合格」という鉢巻きを巻いて授業に参加していた。ランチを一緒に食べたり、大学の様子などの話を聞いたり、学生との交流は楽しく、安全面も大学側が配慮してくれてまったく心配なかった。5月、6月とオンライン授業を続けたが、6月は大学の期末試験と重なり欠席者も多く、最後の追い込みの授業は残念ながら不十分であった。11人がJLPTのN4を受験、結果は合格点の約6割の得点であったが、ゼロビギナーかつオンライン授業の結果としては健闘したといえる。学生からも「日本語に触れる機会を頂き、ありがとうございました」というメッセージが届き、講師一同うれしい気持ちになった。
日本語講師 中澤 ゆり
ABICの日本語教師養成講座を受講した経緯から声を掛けていただき、5人の学生を担当した。授業では副教材として英訳付きのPPT資料を自作し、日本語で説明が難しい場面では英語で対応した。1人の学生は日本に大変興味を抱いており、日本の好きなところをよく話し、毎回積極的に授業に参加してくれた。一方悩ましかったのは、いかにクラスの雰囲気をコントロールし学生を巻き込んでいくかということであった。対面式よりも空気が読みづらく、なかには授業の途中でいつのまにか退室してしまう学生もいた。また現地のネット環境の都合上、やむを得ず学生側のカメラ機能をオフにすると、学習状況がさらに把握しにくくなるという点も悩ましかった。
短時間での効率的な教え方や学生の意欲の上げ方など試行錯誤の連続であったが、養成講座の先生方よりご教授いただいた「シンプルに教えること」を念頭に置きつつ、学生の心の機微を感じ取ることを心掛けた。プログラム終了後、学生からのメッセージの中で「日本語の授業は新しい世界へつながるドアを開けてくれました」という言葉を目にした時には、何ともいえない温かい気持ちになった。彼・彼女たちの人生のどこかで日本語を学んだという経験が役立つことを切に願っている。