活動会員のレポート

外大生へのメッセージ

英語学校講師  九門 くもん みさき (元 ロンドン補習授業校)


タワーブリッジを背景に

霧のロンドン

はじめに
 1997年に夫のロンドン赴任が決まり、家族みんなで渡英した。2018年に帰国するまで暮らした21年間は貴重な体験の連続だった。2023年から2024年にかけて、ABICから名古屋外国語大学で講義をするお話をいただき、この体験を基に、外大の学生が興味を持てそうな内容を考えた。実は私も外大生だった。アラビア語専攻でチュニジアに短期留学したものの、特に就職に有利になるとは思えず、卒業を前にして、英語が少しも上達していないことに焦りを感じていた。「英語を使う仕事」をしたかったが、それはどのような仕事なのか、よく分からなかった。そこで、そうした私の学生時代の経験を踏まえて、「英語の上達法」と「英語を使う仕事」について話すことにした。また、21年間の英国滞在で知ることができた、「英国という国」についても話すことにした。具体的には以下のような講義をした。

英語の上達法
 私が大学で取得した資格は、英語の教員免許と英検2級だけである。通勤電車の中でアガサクリスティの推理小説を読んで英語力を保持した。数年後、ケンブリッジ英検のProficiency級に合格、続けて英検1級も取得した。ところが、後に渡英してみるとBBC Newsの英語が半分も分からない。がくぜんとした。日常会話すらままならない。本場の英語は難しかった。加えて、日常の雑事が日本のようにスムーズに運ばない。交渉事や、苦情を申し立てる場面が非常に多い。最初は、いちいち頭の中で英作文をしてから「戦い」に臨んだ。その場でいきなり文句を言えるようになったのは数年後だ。特に電話は不安だったので、聞き取れた内容をリピートして相手に再確認してもらった。連日リピートしていたら聞き取れるようになってきた。聞き取れるようになったら自動的に話せるようになった。Speakingの上達には読み書きも大切だ。小説や新聞を毎日読んでいたおかげで、会話の中で耳にする単語や表現がしっかりと頭に残った。今でも、知らなかった表現を耳にした瞬間は、どれも鮮明に覚えている。数年後、キングストン大学大学院で美術史を、そして、ロンドン大学大学院でアラビア文学を学んだ。大学院の授業は学生主導型で、プレゼンとディスカッションが中心である。専門書を読んでエッセーと修士論文を書く。英語の4技能が自然と身に付いた。

英語を使う仕事
 新卒で文房具の輸出営業、バーレーン日本人学校で英会話の講師、翻訳会社で洋書のシノプシス作成、ロンドン補習授業校では10年間担任を務めた。そして帰国が決まり、英語学校中心に就職活動をした。しかし、すでに一般的なリタイア年齢に近い。仕事があるのか不安だった。それで、翻訳者も選択肢に入れて、法律翻訳の通信教育を始めた。だが、法律知識ゼロの私がプロになれるわけがない。そもそも日本語の文章力も怪しい。マイナス要因ばかりだった。ところが、東京に着いてみると、案外、すぐに採用が決まり、資格英語を教える講師として、英語学校の他、大学や高校、企業にも派遣されて大忙しとなった。それから6年間、今も英検、TOEFL、IELTS、TOEIC等を教えている。生徒の年齢は小学生から社会人までと幅広く、学ぶ目的もさまざまだ。英国生活の中で吸収した実践英語と大学院での勉強が役に立つ。法律翻訳の方は、チェッカーとして、契約書の翻訳文を校正する仕事を請け負った。

英国という国
 英国社会が抱える問題とこの国の素晴らしさについて、英国の社会制度や年中行事も含めて、動画を見せながら実体験を語った。大都市ロンドンには、移民という異物をクールに受け入れる伝統と寛容さがある。大学もそうだ。外国人で50代の私を、20代の学生と区別せずに、厳しく丁寧に指導してくれた。留学生にとって最高の環境だと思う。

最後に
 この講義で、英語を学ぶことと、外国で暮らすことの面白さを伝えたかった。学生たちの将来に少しでも役立てばうれしい。