
島津製作所 創業記念資料館

日本新薬 山科植物資料館(右から2人目が筆者)

松井酒造前にて記念撮影
2025年1月中旬に、第16回となる「Japan Career Exploration Program(JCEP)―日本企業視察研修プログラム―」ツアーが、2週間の日程で開催された。香港科技大学キャリアセンター主催で実施されるこのプログラムは、香港のみならず、選抜されたアジアの優秀な理系・工学系およびビジネス系の学生30人を対象とするインバウンド型企業視察研修ツアーである。
私は、日本の大学で文学部哲学科美学美術史を専攻し、卒業後イタリアのフィレンツェ国立大学でジョットからティエポロまでのイタリア美術史を研究した後に、伊日間の商業通訳・翻訳に携わっていたが、2024年12月に国際見本市事務局からABICをご紹介いただき、活動会員として登録した。そして、このたびABICの紹介によりJCEPの通訳兼お世話役として関西ツアーに帯同することになった。
もとより本プログラムは、将来、日本で就職を希望する海外の学生が日本企業を研究し、日本企業の文化を理解することを目的として実施されてきた。そのため、日本企業の工場や企業ミュージアム、資料館の見学、ジェトロや日本企業の人事部とのディスカッション・セッションなど、4日間で9件の活動が盛り込まれるという忙しい旅程だったが、学生は最終的にサーベイ調査書を提出することになっているなど、素晴らしいプログラムだと思う。
ツアーは、香港科技大学の教職員スタッフ2人とロイタ株式会社の堀部CEOの引率により、込み入ったスケジュールも円滑に進行した。私が考えていたインバウンドツアーとは異なり、学生たちはそれぞれ自立しており、Z世代らしく学生たち全員がWhatsAppアプリ(日本ではLINEほど普及していないが、同様のアプリである)を使ってお互いが連絡を取り合いながらスムーズに行動していた。日本企業やジェトロとのセッションでは、日本でスタートアップ企業を立ち上げるにはどうしたら良いかなどの活発な意見交換があった。日本が好きで日本語をうまく話す学生もいたが、ほとんどの学生は英語でのコミュニケーションである。日本で働く場合の問題点は何かとの質問には、日本語の難しさを挙げる学生も多くいた。
京都にある島津製作所の創業記念資料館では、多くの発明品や古いレントゲン装置が展示されていて、日本文化に詳しい学生は、これらの展示物に感銘を受け、多くの興味深い発見があったようだ。島津製作所の社章と島津家の家紋の関係など、かなり深堀りした質問もあった。私にとっても、香港の学生が士族の家紋の知識を有していることは新鮮な驚きであった。また、日本新薬の山科植物資料館では、冬で多くの植物が枯れていたものの、ヒョウタンやタバコといった珍しい植物を見ることができた。企業側から温室で育てたバナナを提供いただいたり、英語で会社概要を説明いただいたりと、とても丁寧で温かいもてなしを受け、学生たちは植物園見学を楽しんでいた。関西ツアーの最後に訪れた松井酒造の日本酒醸造所では、米国人杜氏から英語で酒の発酵プロセスを説明いただき、その後の試飲会で学生たちは大いに盛り上がっていた。私はこのプログラムに参加できたことに感謝し、この後に続く東京ツアーが学生たちにとって有意義な体験となることを願いつつ、任務を終了した。