
講義の様子

永国寺キャンパス

香美キャンパス
私は、これまで約40年にわたり、大手電機メーカーおよびグループ企業において企業人としてのキャリアを歩んできた。調達、生産管理、IT、CSR、海外事業など、多岐にわたる分野で業務に携わり、成果と責任を強く求められる環境に身を置いてきた。定年後、自身の経験を社会にどのように生かしていくべきかを考えていた頃、ABICから大学教育への関与に関する案内を受けたことが、現在の活動の原点となっている。
現在、高知工科大学 経済・マネジメント学群の教育講師として、「スタディスキルズ」「2年生キャリアプラン」「3年生キャリアセミナー」などを担当している。講義の中心に置いているのは、知識の習得ではなく、自ら問いを立て、自ら考え抜く力を身に付けることである。企業社会で求められるのは、正解を覚えている人材ではなく、状況の中で判断できる人材だからである。学生の就職支援においても、高知で働く選択肢と県外で挑戦する道の双方を示しながら、本人が納得して決断できるよう伴走することを大切にしている。
キャリアセミナーで担当した一人の学生が、「地元に残るべきか、県外へ挑戦すべきか」で悩んでいた。自己分析を重ねても答えが出ず、「どちらが良いか教えてほしい」と率直に打ち明けてきた。私は答えを与えなかった。その代わりに、「十年後、どの選択をした自分なら誇りを持てるか」と問いを返した。数週間後、彼は首都圏のグローバル企業への挑戦を、自らの意思で決めた。その表情は、最初に出会ったときとはまったく違っていた。あの瞬間、教育の意味をあらためて実感した。
企業人としての長い経験は、就職活動の現実を伝える場面で生きている。面接で何が見られているのか、組織は何を期待しているのか、キャリアはどのように積み上がるのか。実体験をもとに語ることで、学生の表情が変わる瞬間がある。その変化に立ち会えることは、大きな喜びである。
高知工科大学には二つのキャンパスがある。高知市中心部に位置する永国寺キャンパスと、自然に囲まれた香美キャンパスである。都市機能が集まる高知市での講義では、学生たちがアルバイトやインターン、地域企業との接点を持ちながら将来を考える姿に触れる。一方、田園風景に囲まれた環境では、四季の移ろいの中で落ち着いて学ぶ学生たちの姿を見ることができる。同じ大学でありながら、空気感はまるで異なる。この二つの環境を行き来しながら講義を行うことは、私自身にとっても大きな刺激である。都市部の利便性と、自然豊かな土地の静けさ。その双方を享受できる高知県の魅力を、日々実感している。
現在は同時に、自社の経営にも携わり、社会貢献を主目的とする一般社団法人にも所属している。そのため神奈川と高知の2拠点で生活していることも、人生後半の楽しみの一つである。都市圏の利便性と情報環境、そして高知の穏やかな自然と人の温かさ。その往復の中で、視野が広がり、思考が整えられていると感じる。ABICの支援がなければ、このような生活は実現しなかったであろう。これからも、大学という学びの場、経営の現場、社会とつながる活動の場を往復しながら、無理のない歩幅で関わり続けていく所存である。その最初の一歩を支えてくださったABIC関係者に、心より感謝申し上げる。