マンスリー・レポート No.12 (2001年9月)
ABIC会員の集い(7月31日)
設置コーナーと担当者〔敬称略〕
《1》 大学等での講義 (増田・和田)
《2》 シニア海外ボランティア (平野・橋本・大橋・細井・井口・小船井)
《3》 NGO (田中・藤川)
《4》 IT研修 (中島)
《5》 ワールドカップ (横溝)
《6》 IFC等国際機関 (池上・矢野)
《7》 中小企業の海外進出 (林・戸谷・安福)
《8》 外資企業誘致 (秋元・今泉)
《9》 日本語教室 (千野・佐藤)
《10》 留学生向け習い事 (山田)
《11》 ホームステイ・ホームビジット (宇佐見)

 東京・お台場の「東京国際交流館(国際研究交流大学村)」国際交流会議場で「ABIC会員の集い」を開催しました。活動会員の方(ご夫人方を含む)が210名、日本貿易会関係者含め全体で約240人の参加と盛況でした。

 集いではまず、(株)三井物産戦略研究所 寺島実郎所長の講演「社会人とNPO・ボランティア」、続いて(財)日本国際教育協会 菅原正弘常務理事による紹介「国際研究大学村について」を拝聴した後、懇親ビアパーティーを開催。パーティーでは、ABICの活動分野ごとにコーナーを設置し、各コーナでは実際に活動している会員やコーディネーターを中心に、活発な懇談が行われました。

寺島実郎氏の講演「社会人とNPO・ボランティア」(抄録)

 市民による自発的な社会貢献活動を促進することを目的とした特定非営利活動促進法(NPO法)が1998年3月に成立しました。それ以降、NPO活動について議論が積み上げられつつあります。

 本講演では、「グローバル化×IT革命=新資本主義」という時代認識を踏まえながら、NPOを社会基盤に組み込む重要性について以下のようなお話がありました。

「public」という概念

 日本は経済的に豊かになればいいという考えで走ってきた。それは「私生活主義」「拝金主義」「会社主義」という言葉で表現できる。しかし、「会社内ヒエラルキーでの進歩=自分の幸せ」という概念が崩れかけていることにも現れているように、従来の精神構造では立ち行かなくなってきた。

 戦後の日本に決定的に欠けてきたのは「public」という概念である。日本には、「官」「民」の間に「公」=「public」という概念が育っていない。自分たちが主体的に社会システムを維持していくために「public」が必要となってくる。欧米では「social engineering」という学問(社会工学)が存在しており、社会基盤の整備が「public」を踏まえて進められている。

NPOの利点

 米国は競争主義の国である。ひとことで言えば「天才とホームレスの国」。普通なら、一生履歴書を書いて走り回らなければならない国と言える。しかし同時に米国には、120万団体のNPOがあり、1,000万人がNPOで生計を立てられているという環境があることも忘れてはならない。競争主義という一面を、一方でNPOの存在が安定的に補完しているのである。

 NPOには3つの利点がある。1つ目は、失業率を下げることである。NPOは、有給のスタッフを運営する組織であり、ボランティアではない。十分に生活していける仕事として、労働者の受け皿になっているのである。

 2つ目は、社会政策のコストを下げることである。「小さな政府」を実現するためには、「官」にすべてを期待していてはだめである。「公」としてのNPOで、市民自らが社会的諸問題を解決していくことで、「官」における社会政策コストを下げることにつながるのである。問題解決を「官」に期待するだけでは、増税を招くだけである。

 3つ目は、「働く意義」の創出である。時間を切り売りして単にお金があれば生活していけるということでは、「働く意義」は見い出せない。自分が社会に貢献できているという実感や、社会に役立つ仕事で生きているという満足感を得る機会がNPOにはある。日本でも、高額の年収を捨ててNPO活動に入っていく人が増えてきている。日本も正気になってきていると言えるのではないだろうか。

NPOへの参画

 日本では、約5,000団体のNPOが認可されている。ABICをはじめとする業界団体によるNPOも増えつつある。NPOは個人にとって、第二の人生を社会貢献しながら自分の人生を支えていけるものである。一人ひとつのNPOという形で、まずは各自、自分の考えに合致するNPOで活動していけばよい。中教審での議論を通じて感ずるが、子供たちにも、大人から貢献を強制するのではなく、自らが貢献する姿勢を持ち、その背中を子供たちに見せていくべきであろう。

 NPOとは、いわば綱引きのようなもので、綱を長くして一人でも多くの人が参加し、みんなで引っ張り合うことが大事である。今後、NPOを社会基盤に組み込むためにも、日本でしかるべき「social engineering」が必要になってくるだろう。

(文責:ABIC事務局)

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