経済産業省の対発展途上国技術協力で、要のご活躍をされている経済産業省貿易経済局技術協力課長 櫻井繁樹氏に、インタビューをいたしました。インタビューアーの上條水美さんは、(株)トーメン・調査情報グループリーダー、日本貿易会が2000年度に実施し『アジアとともに歩む21世紀』を出版した研究会のメンバーでもあります。
(上條)今日は、主にアジアにおける日本の技術支援について櫻井課長のご意見をお聞かせいただければ、と思っております。
(櫻井課長)私自身は、7月2日に現職を拝命しましたので、ちょうど4ヵ月ほど経ったところです。やはり現場が大事だと思いまして、着任早々ではありましたが、GAP(グリーンエイドプラン)の政策対話等機会をとらえて、早速タイ、インドネシアとインドへ行ってまいりました。
行くに当たっては、ひと通り今の技術協力課はどういうことを担っているのか、今後、経済産業省の政策の中でどういう役割を果たしていくのか、という点について私なりに整理してみました。それが次の4点です。
政策環境の変化に対応する技術協力の構造的変化
(櫻井課長)まず1つ目は、経済産業省を取り巻く環境、さらに言えば日本国を取り巻く政策環境というものが大きく変わってきているということ、その中で、技術協力政策の位置付けにも構造的な変化が否応なしにあるということです。すなわち、プラントのようなハード面での支援から制度改革のようなソフト面での支援ものへ、という流れの変化がそのひとつ。さらに言えば、個別の取り組みとしてではなく、経済産業省の展開するアジアワイドな通商・産業政策の一環として、技術協力によってアジア諸国の経済発展基盤を整備するという意味合いが重要になっているということです。これはいろいろな方がおっしゃっているところの“日本の顔が見えるODA”ということにも通じていくべきものではないかと思っています。
ツールとしての技術協力はインテリジェントなインターフェイス
2つ目に思っていることは、技術協力課の実務的な役割とは何なのかということ。技術協力課は、平たく言えば、技術協力に関わるツールを所管していて、これを有効に適用し、活用していくことが役割かなと思っています。これは簡単に聞こえますが、実は非常に大事なことを含んでいます。我が国の政策との関係で引っ張られるPolicy
orientedな面と、ある国でとにかく足元でこういうところで困っているという現地の要請に引っ張られる実施面、すなわち、Practice
orientedな面とがあるからです。
ツールというのはある意味でインターフェイスですね。今までは、とりあえず政策に引っ張られたり、要請に引っ張られる実施面から決まることが多かったのですが、ツールという基本的な役回りに立てば当然ということかもしれません。しかしながら、これからはもう少しインテリジェントなインターフェイスを意識していくことが大事だと考えています。すなわち、ツールはツールなのですが、ベスト・ポリシー・ミックス、もしくはベスト・プラクティスという観点にたち、政策面と実施面の両面に対して情報発信するスタンスでこれを考えていくことが大事だという意識です。先に述べた大きな構造変化に対しても、インターフェイスにこの意識がないと、なかなか有機的かつ効率的な展開はできないのではないかと思います。
つまり、1つ目に大きな政策を巡る環境変化にともなって、技術協力の構造変化を考えていかなければいけない。2つ目に技術協力は、オペレーティング・システムとして、よりインテリジェントなインターフェイスであることを自覚して、通商・産業政策実現に貢献していきたい、ということです。
中継ぎとしてのインターフェイスの存在価値はインテリジェンス
(宮内)いまおっしゃったインテリジェントなインターフェイスというのは大変面白い話ですね。いろいろな団体や組織というのはインターフェイスという中繋ぎであることが多いわけです、僕らも含めて。それがインテリジェントであるかどうかで、結局全体が決定的に違っていくのだと思います。
(櫻井課長)それを自覚、指向しているかどうかでいろいろなことにかなり違いが出てきます。
(宮内)商社だって右から左に流して口銭稼ぎに行っているだけではもうだめ、付加価値のない中継ぎは滅びていく。インターフェイスがインテリジェンスを持っているかどうかというのは存在価値そのものですね。これは僕らも使えます(笑)。
技術協力の重点課題、アジア諸国の自立的かつ中長期的な経済発展基盤構築のために
(櫻井課長)先ほどの2つの大きな問題意識を掲げたうえで、3つ目に足元にどんな課題があるかということになります。主要なものに、中小企業支援や裾野産業の支援などがあります。具体的に言えば、タイに対しては水谷プロジェクト、インドネシアに対しては浦田ミッションという形でのコンプリヘンシブな中小企業支援等を継続していく。その中で、従来にも増して制度改革支援への重点化を図っていくということです。
また、AMEICC(日本・ASEAN経済産業協力委員会)等の場を活用したASEANにおけるCEOの育成、中小企業の診断マニュアルの作成とか、産業支援のための巡回指導、さらに人材育成支援、情報化支援といったものがあります。
もうひとつ大事なことは、ASEANという地域圏を考えたときに、シンガポール、ブルネイはさておき、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンの後に控えている、俗に言うCLMV、つまりカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムをどういうふうにかさ上げしていくか、という課題があります。これがうまくいかないと、AFTA等の動きの中でシナジェティックなエリア・ネットワークというものが出てこないのではないか。このような観点から、技術協力を通じたCLMVの産業構造改革の支援を今後の一つの柱にしていきたいと思っています。
(上條)ASEAN4とCLMVとの差が広がっていくと今のアフガンではないですけど、きしみが生じますよね。
国民に対するアカウンタビリティーとしての成果・評価
(櫻井課長)最後の4つ目に改めて留意しておく必要があるのは、成果・評価。国民に対するアカウンタビリティーが言われている中で、国の税金を投入して技術協力をしていくわけですから、やはり投入したコストに対して国民の皆様に成果がどうなっているか説明できなければいけない。いいことをやっていれば何をやってもいいというわけではなくて、しかるべく成果・評価というものを考えていかねばならない。これは非常に難しい問題ですが、チャレンジしていくことが不可欠だと思っています。
(宮内)ものすごく難しいですね。
(上條)企業で言うところのIRですね。きちんと国民にわかるように説明すれば、経済産業省が過去にしてきたことの効果も評価されるはずだと思います。ASEAN諸国で日本の国が貢献したこと、例えばインフラ整備とかはもっと強調して良いと思います。確かに無駄なプロジェクトもあったかもしれませんが、ひとつ問題にされると過去の貢献がすべて非効率だったように言われ、非常に損をしていると思います。もっともそういうことは自らはなかなか言いにくいですね(笑)。
(櫻井課長)いずれにせよ、まずきちっと成果を出し、次にこれをどのように評価していくかを十分に検討していくということだと思います。
(上條)宣伝ではなくて、評価ですね。きちっとやって、評価して、それをそのまま言うことがアカウンタビリティーになります。
民間とのコラボレーション、政策実現のためのインターフェイス
(櫻井課長)また、3つ目の具体的な施策をどう展開するかという点では、政府ベースのものも重要ではありますが、民間ベースの技術協力の重要度が今後ともますます増してくるだろうと認識しております。そういう観点から見た時に、商社の集まりである貿易会の中に、NPOとして国際社会貢献センターを設立されて幅広く活躍されていることは、大変注目すべきことでもあり、私どもも今後の活躍に期待しております。
(宮内)商社のOBは、いろいろなファンクションの中で腕を磨いて経験を積み力もつけてきましたし、その国に強い愛着もあります。ただ、政策支援など新たな役目にすぐには対応できない面があります。改めて、その国の最新の情況や時代の要請に合わせてキャリアアップして初めて、大いに力を発揮できるという感じがあり、国際社会貢献センターでは組織的にそうしたサポートもしたいと考えています。
(櫻井課長)それが、インテリジェンスなインターフェイスです。技術協力課の専門家派遣とか、制度改革支援、人材育成にもかかわりますが、今おっしゃられた一工夫がないと、冒頭にあげた政策環境の変化への対応が十分にできない。単なるODAではなく、通商・産業政策の中でどういう役割りを果たすのか、十分な役割りを果たせるのかというとき、やはりインターフェイスのところをどう考え、実行性を確保していくかが大事なことになると思います。さはさりながら、冒頭でも申し上げた通り、技術協力課にとっての基本は現場なんですね。ですから現場との関係で、可能な限りリアルタイム・ベースのところに自分を置くことが大切だと思っています。
(宮内)本日はご多忙中、貴重なお時間をいただき、いろいろ楽しみなお話を聞かせていただいて、本当にありがとうございました。今後ともアジア支援など日本の協力政策の実施に、少しでもお役に立てればと思っていますので、よろしくお願いします。
(なお、同課の関連で活動会員がJICA個別専門家として長期派遣されているのは、ハンガリー、エジプト、インドネシア、カンボジア、パキスタンで、ジンバブエが予定。また、1〜4ヵ月の短期派遣予定が、ポーランド、カンボジア、アルゼンチン、ブルガリアとなっており、今後とも一層の貢献に努めたいと考えています。)
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