マンスリー・レポート No.24 (2002年11月)
活動会員のレポート
  アルゼンチン中小企業事情
   

久保田 隆(元 丸紅)

 空路30時間、時差12時間、四季は正反対、アルゼンチンは日本から遠い国である。「中小企業支援体制に対する指導・提言」の目的で4月中旬から8月中旬までJICAの短期専門家として4ヵ月間滞在した。日本がワールドカップで湧き返っているころ、私は中小企業が多いラファエラ、コルドバ、ロザリオといった地方都市をプロペラ機と車を乗り継いで地方巡業していた。

 同国には、企業に対して技術指導をするINTIという機関がある。日本で言うと工業試験所といったところであろうか。しかしINTIには、中小企業が求める経営相談、国際マーケティングについての知識・機能はない。資金がない大半の中小企業は、設備が老朽化しており、安全基準・衛生基準に適合しない。したがって今回のペソ切り下げに伴う経済混乱に陥る以前から、企業は輸出競争力がなく国内市場にほぼ全面依存していた。そして混乱である。頼りにしていた国内市場の購買力は激減し、失業率は20%とも30%とも言われる状態になった。中小企業の大半は、人間で言えば「手遅れの重症患者」と言える。もう2、3年前に企業がまだ体力を残しているときに、しかるべき指導を行っていれば救えた企業もあるのにと感じた。

 中小企業のほとんどが零細・家族経営で、週に2、3日しか工場を稼働せず、従業員を往時の半分以下に減らして細々と生き長らえている。地方企業には半農のところも多く都市部ほど大きな騒ぎは起こっていないが、この状態が続けば地方からの暴動も起こりかねず大きな社会問題になるであろう。一方ではこういった中小企業の中にも、商品スペックを若干改善し、しかるべき海外市場へ的を絞った販売活動をすれば輸出できる商品を作っているところがあった。しかし彼らには海外市場へアプローチするノウハウは皆無であった。

 かかる状況に鑑み、INTIの地方支部と地方政府、今回の具体例で言えば、INTI/ラファエラとラファエラ市の共同プロジェクトとして、中小企業支援センターを設置し、そこにカウンセラーを常駐させる。日本からは、この地方の産業に適した、酪農製品の国際市場・販売に通じた人、メタ・メカニカル商品の国際市場・販売に通じた人、中小企業に対する新規事業開発・経営相談に通じた人の3人を専門家として1年間派遣し、アルゼンチン人のカウンセラーに指導・訓練(OJT)し、将来的にはアルゼンチン人のカウンセラーが同国の中小企業に指導して、輸出貢献企業を育成し、経済復興につなげようという狙いである。幸いにもラファエラ市長はこの案に賛成してくださり、JICAに専門家派遣要請が提出された。同市長はカウンセリングを受けた企業にはある程度の助成金を出すとの話なので先が楽しみである。

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