マンスリー・レポート No.46 (2004年10月)
活動会員のレポート
  カンボジアにおける識字教育について
    NPO法人日本紛争予防センター カンボジア代表 田中 剛(元 伊藤忠商事)

 カンボジアの東北端で、ラオスとベトナムに国境を接するところにラタナキリ州がある。首都プノンペンからは、メコン川を上る船と車を乗り継いで2日がかりである。飛行機だと1時間であるが、よく欠航する。まず陸の孤島といった感じである。州都バンロンからさらに奥地に入ったところに、私たちが対象としているタンプーン族という少数民族が暮らしている村落がある。森に囲まれた静かな丘陵地に、住民たちは焼畑農業で、とうもろこし、バナナ、カシューナッツなどを作って生活している。

 近年この辺境の地にも近代化の波が押し寄せ、人々は語学、知識習得が必要となってきている。ご承知かと思うが、少数民族の人たちは、独自の言語を使用しカンボジアの国語であるクメール語はうまく話せない。そこで誤解と差別が生じがちである。たとえば生産した野菜などを市場に持っていって販売して、生計を立てている人たちがいるが、お客であるクメール人と交渉する語学力、計算力が不足しているために、不利な取引を強いられることがある。教育が必要であるが、政府はこのへき地に学校を開く余力はない。そこで私たちは学校を開き、識字教育を行うことにしたわけである。

ラタナキリ州ピン村でクラス開設にあたり文房具を配布(筆者左)

 2001年10月にプラク村に最初の学校を開いたが、その後、周辺地域にも広げて、現在8校で生徒数も合計300人近くになっている。校舎、机は近くの森の木を切って自分たちで作り、教材と文房具はこちらで支給する。昼間は仕事に出るので夜間開校であるが、電気が来ていないので、太陽電池を利用した自家発電設備をとりつけている。先生は村人の中から選んで養成する。実は先生自体も小学校の2年生ぐらいまでしか行っていない人が多く、先生に対する教育訓練が大切である。

 こうして勉強の環境を整えるわけであるが、当初めずらしさもあって熱狂的にたくさん参加した生徒も時間が経つにしたがい、生活に追われるためか、だんだん出席者が減ってきたり、また生徒の間の学力差も出たり、内容が進むと先生自体が理解できないことも出てきたりして、なかなか一筋縄にはいかない。それでも一般的に学習意欲は旺盛で、最近では、おかげさまで、小学校2年程度の学力を身につけた生徒も出てきている。

 夕方これらの村を訪れると、村の暗闇の中で学校だけは電気がともり、生徒たちが声をそろえて元気よくクメール語の発音練習をしているのが聞こえる。何か新しい世界が開けてくるような気がする。

ラタナキリ州プラク村の小学校での授業風景 ラタナキリ州ピン村住民が自分たちの手で学校建設
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