マンスリー・レポート No.47 (2004年11月)
活動会員のレポート
 

真夏の熱い英語教育研修会

    工樂 誠之助(元 松下電器産業)
 兵庫県教育委員会から高校校長夏季研修会(7月30日)でのパネルディスカッション「日本の英語教育の今後の方向性について」のパネリスト派遣要請を受け、ABIC関西デスクで推薦した工樂氏から寄せられたレポートを紹介します。

 兵庫県明石市は東経135度の子午線が通過する町として有名であるが、その北30km強に位置する社町もまたその経度上にある。古くは722年創建の佐保神社の門前町として栄え、明治時代には郡役所が置かれて以来、国・県の出先機関が設置され官公庁の町として開けていった。その社町にある兵庫県教育研修所が、今回の「日本の英語教育の今後の方向性」と題するパネルディスカッションの開催地である。

 今年は観測史上初めてという暑いあつい夏であったが、会場いっぱいに埋め尽くされた200余人の県立高校の先生方は時宜を得たそのテーマに熱い関心を寄せられているのが、壇上のパネリストのわれわれに敏捷に伝わってくる感じであった。

 当日の午前には、県教育委員会からの基調講演「本県の英語教育の動き」があり、午後一番には神戸大学沖原勝昭教授の「文科省の戦略構想と英語教員の自己研鑽」と題する記念講演があった。

 続いて、「日本の英語教育の今後の方向性」というテーマでパネルディスカッションがスタートした。コーディネーターである沖原勝昭教授からイントロとして高校英語教育の現状総括があり、その後4人のパネリストが7分余の持ち時間でそれぞれの考えを発表した。終わり近くには、会場の先生方から現場のご苦労や提案なども発表された。

 そして、学習意欲をどう呼び起こすか、読解力・作文力 vs 実用英語、会話ができる英語、仕事・社会に役立つ英語、英語よりも話す中身(歴史、文化を理解したうえで)、テキストの選定は誰が何を基準に等々パネリスト間の活発なディスカッションが始まった。これらをより効果的に実現するために、教員の海外派遣や高校生の留学促進なども提案された。

 コミュニケーションの手段である言葉は心の遣いでもある。また相互文化の理解のための言葉でもある。しかし、この最も重要な基本のところをないがしろにした今の日本の高校英語教育は入試のために準備されたカリキュラムで成り立っていると聞く。ところが大学入学後の英語の書物は入試のような難解なテキストを使用していないようだ。

 拡大EUは2004年5月から25ヵ国となり、公用語も22言語である。今、EUでは「ワンプラスツー」のアクションプランが展開されている。自国語にプラス2ヵ国の言葉を学ぼうとするキャンペーンである。

 国際社会のあらゆる場面でより緊密な連携が期待されている日本は、より実用的な英語、社会生活の中で使える英語、自分を表現できる英語、議論できる英語の教育が待たれている。

 パネリストの一人であるニュージーランドから来た元兵庫県の高校英語教員が、この会の終了後、私にそっと話してくれたことは現場の苛立ちを伝えている。「日本の英語教育は大学入試がその自由な展開を妨げている」。このテーマは長く度を重ね議論をしてきたが、その変化は遅々として進んでいない。このパネルディスカッションは高校教員対象でなく文部科学省を相手にすべきだったのかもしれない。

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