昨年4月に当地北スマトラ州メダン市に赴任し1年半になる。メダン市は人口200万、インドネシアでは3番目に大きく、スマトラ最大の商業都市である。
小職の指導科目は「中小企業マーケッテイング」ということだが、配属先の商工総局長からは具体的業務目標として当地の農水産物資源を取り扱う企業に経営コンサルタントとして輸出促進と経営活性化の支援を要請された。また、理論、理屈よりも実践、成果を尊ぶスマトラ人気質を尊重し、企業の求める商品開発、輸出促進、売上向上などの成功例を示して欲しいとも言われた。さらに、それらのモデルケースを他の企業にも開示すると同時に商売経験の乏しい商工総局300人の役人にも分かりやすく経営改善手法をセミナーで指導して欲しいと要請された。
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日本の大手スーパー向け「大学芋」。さつま芋を乱切りにしたものを約6分油揚げし、その後クーリング(冷ます)→袋詰め→急速冷凍加工 |
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日本の大手スーパー向けおでん大根輪切り加工作業。大根の厚みも直径も均一に輪切り作業する。輪切り→煮沸→袋詰め→箱詰め(酢液詰めしているので常温で輸送) |
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チリメン・ジャコの加工作業。日本と同じレベルで稚魚煮沸→乾燥→機械サイズ選別の工程の後、チリメン以外に混入しているエビ、カニ、雑魚の稚魚を手作業選別。当地安価な女工賃金で細かい作業も可能 |
豊かな農水産資源と実務業務
当地事情を知るに従い、JICAは小職に最適な赴任地を選んでくれたと思った。当地の農水産物資源は極めて恵まれており、その豊かさはアジア諸国で最大級である。現役時代、農水産物、食品など世界各国からの開発輸入業務を長年経験したが、その経験を生かせる場所であると改めて認識した。
実務の一例を紹介しよう。メダン市の南部60kmから広大な高原地帯が広がる。標高800〜1,300mで年中平均気温が15〜25度で、しかもインド洋からの湿った気流が定期的な降雨をもたらし、肥沃な火山灰に覆われた当国最大の果物、野菜の産地となっている。中央部のトバ湖の豊富な水量を利用してアサハン・ダムから54万kwの電力が供給される。
日本から各種野菜の種を輸入し、それを1,000haの契約農家に販売してできた作物を全量加工企業が買い取るシステムを構築。ほうれん草は種を蒔いて35日後収穫、大根は50日、さつま芋、牛蒡は5ヵ月で年中栽培可能であり、しかも堆肥作りに長けているバタック人農家は農薬をほとんど使わない。昨年の毎月の船積み出荷数量は、大学芋80トン、ほうれん草100トン、おでん用大根200トンなど年間5,000トンを対日輸出した。
他の作物ではパーム油、ゴム、ココナツと3大プランテーションがある。コーヒー、カカオの他、ドリアン、マンゴスチン、パイナップル、パパイアなど当国最大の果物産地で輸出向け加工を検討している。
水産物では各種エビ、カニ、チリメン・ジャコの原料が年中漁獲できる。これまでにこれらに関与する120企業から相談を受けた。その中から現在15企業に絞り、輸出実績拡大に向け支援している。
今後の業務課題
当州の輸出金額は2001年22.9億ドル、2002年28.9億ドル、2003年31.5億ドルと順調に増加している。ほとんどが農水産物原料であり、将来の輸出拡大には高付加価値化、完成品加工輸出が必要である。そのためにはインフラの整備と海外企業誘致のための環境整備が必須であるので州政府に薦めている。州政府も輸出促進第一主義の政策を採用しており、その第一弾として、各企業の貿易実務能力を向上させ経営改善に資するため2004年4月に貿易研修センターを完成させた。JICAは同センターにパソコンなどIT機器を寄贈した。このセンターの一室に小職の事務室を移動し、各企業の相談に対応している。
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州政府の前で当地支援企業の若手と。JICAがマーケット研修として日本に数社を招聘。出発前に州政府知事を表敬訪問し出発の挨拶に同行した帰り(筆者:左から2人目) |
JICAはこの8月に果物、野菜、香辛料取り扱い企業から15名をマーケット研修のため日本に招聘した。この研修の予備知識指導支援のため日本の市場流通のセミナーを実施した。また10月にはそれ以外の業種から20名を同じく招聘しそのための指導支援を行った。その結果、各企業の輸出意欲に弾みがついてきた。
当地の輸出企業の多くは福建省出身の華僑で、当地に着任後毎週日曜日に華僑の昼食会に誘われ家内と共に参加している。家族単位で交流しているお陰で幅の広い情報交換ができる。当地はスマトラの表玄関として多民族の坩堝であり、5大宗教が共存共栄している。
歴史学者アーノルド・トインビーの言葉を思い出す。「もしまた生まれてくることができるならば、多様性、多民族に富んだ刺激的な交流ができるシルクロードに生まれてきたい……」。当地はマラッカ海峡に面する南のシルクロードの代表的な町である。JICAの仕事に感謝するとともに誰彼なく多くの人と仲良く交流し、多少でも国際社会に貢献したいという密かな個人目標のためにも、残り半年を全力投球したいと考えている。
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