マンスリー・レポート No.56 (2005年8月)
小中高校向け国際理解教育グループだより
  在日外国人小・中学生に対する日本語指導活動に確かな手ごたえ
    小中高校国際理解教育グループコーディネーター 藤村ふじむら のぼる(元 三井物産)

 日本の学校に編入してくる在日外国人の小学生・中学生に対するABIC会員による日本語指導は2003年度から開始し、昨年度2年目を無事終了しました。これは1回限りの講義・講演と違って、6ヵ月から1年の長期にわたって、同じ生徒に対して行う、「結果の出る教育活動」です。

 対象は種々の事情で日本にやってきた学童生徒です。最初はほとんど日本語が分からず、友達もできない異国の子供たちを、地道に根気よく学習指導していきます。講師も延べ10名に増え、一種の学校運営のようなものになりました。

 依頼主はある地方自治体の教育センターで、同センター経由で業務受託契約の後、講師は市内の公立校に行きます。国籍はさまざまで中国、台湾、韓国、フィリピン、学齢は小学校1年生から中学3年生までの生徒で、1年目は小学生ばかりでしたが、2年目から高校受験を控えた中学3年生の指導も依頼されるようになりました。

ABICベテラン講師による個人授業

 「取り出し授業」と言って時間割の一部をその子だけ「別室において日本語指導」を受けさせる方法と、「普通の授業で講師が隣に座って、先生の言うことを子供に同時通訳」する方法の2つがあります。いずれもいわば一対一の家庭教師スタイルの「個人教授方式」ですが、それぞれ日本語の解釈進度の違う外国人の指導にはこれらがベストの方式です。

 週1回1日2時間、講師はそれぞれ当該国に駐在経験をもつベテランで、当該国語で子供の気心をほぐし、相手の学齢、理解の度合い、ニーズに応じて、工夫を凝らして教科書を調達(または手作り)して適切な指導をしていきます。

ABIC講師の2つの事例

 今年度も含めると3年間連続して依頼を受けているのは、ABIC会員が指導するようになってから、何も話せなかった、書けなかった、読めなかった子供たちが著しく日本語能力を身につけ、日本の学校に適応していった確かな手応えがあったからにほかなりません。その事例として2つを以下にご紹介いたします。

  1. 2004年度、初めて中学3年生の中国人女子を受け持ったABIC会員がこの春先、私(コーディネーター)の家に電話してきました。「あの子が無事某難関都立高校に受かりました!」という喜ばしい報告です。事前に試験に出そうな200漢字の特訓をしていたことを聞いていましたので、ああ本当に師弟ともども努力の甲斐があったなと思いました。
  2. ある中国人小学生兄弟を指導している講師からは、「休み時間や、放課後など2人だけで遊んでしまい、日本人の友達ができないため、父母宛てに手紙を書いて協力を要請したところ、年度の終わりごろにはかなり改善がみられ、兄弟は日本語学習に意欲を示した。日本語指導とは、単なる日本語(本人たちにとっては外国語)を教えるだけでなく、子供たちの立場に立って、異なった社会への適応、異文化への適応を手助けする活動であるとの思いを深くしている」との指導後の感想が寄せられました。
     そしてこの春、この兄弟の兄の小学校卒業式に講師が特別に招かれる名誉に浴しました(他の事例もたくさんありますが、割愛します)。

クラスメイトに芽生える国際交流

 厳しい外国生活と戦って、環境の変化を乗り越えようと努力している小さな在日外国人たちは、勉学に必死で取り組んでいます。そしてやがてその子たちを取り巻くクラスメイトや先生が本当に仲間として受け入れるようになったとき、真の国際感覚・国際交流が芽生えます。

 この外国人児童・生徒の学習手助けは地味で根気のいる仕事ですが、ABIC会員がその特性を生かした、学校の悩みを解消できる、本当に意義ある「国際化」の仕事だと最近つくづく思っております。講師の皆様のご尽力に誌上で感謝申し上げます。

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