私は2005年末、「J-Front事業」の評価委員としてタイ国に出張し、「グリーン調達管理モデル」の実証事業の視察をした。と書き出しても背景や仕組みをご存知ない方もおられるので背景を説明する。
技術援助の方法として外務省系のJICAが行う専門家やシニアボランティア派遣、一方では経済産業省系のJETRO、AOTS、JODCが行う各種援助事業がある。その中にJETROが経済産業省と組んで実施するJEXSA(貿易投資円滑化支援事業)とJ-Front(先導的貿易投資環境整備実証事業)がある。JEXSAはアドバイザーや調査員の派遣である。ABICでは、JETROがインドの商工会議所やメコン流域6ヵ国共同商工会議所等にアドバイザーや調査員を派遣する際、求めに応じて会員を推薦し、採用された。
今回説明するのはJ-Frontである。平成16年度より開始された。企業が単独またはグループで貿易投資環境整備事業をする際、先導的であり公共性があるものは申請してJETROから補助金が受けられる制度である。厳しい審査があるが、16年度は10プロジェクト、17年度は9プロジェクトが選定された。案件の内容によるが審査に基づき数千万円の補助金が支給される。1億円が限度である。
選定に当たっては、事務局のほかに外部から審査・評価委員として7名が選任された。学界3名、業界関係4名である。私も委員の端くれとして昨年に続き今年も選ばれた。委員はプロジェクト選定の際に関わると同時に、選定されたプロジェクトが計画通り実施されているかどうか視察・評価する必要がある。
昨年度は、生体認証技術を活用したID基盤構築の実証をタイ国で、無線IP電話システムの実証をタイ、ラオス、ミャンマーの3ヵ国国境地区で視察した。前者は、銀行カードに使用され始めた指先や掌の静脈利用の認証方法である。後者では、僻地のタイの小学生が上記システムを仮設した同地の大学を経由してバンコックとインターネット、次いで埼玉県の小学生とTV電話で交信することもできた。
今年度は書き出しの通り、グリーン調達管理モデルの実証事業を視察した。世界的に環境汚染防止の製品つくりが進行する中、EUは特定有害物資の使用を禁ずるいわゆる“RoHSの指令”を制定し、2006年7月より適用する。グリーン調達の強化である。EUに輸出する製品10カテゴリーはその適用を受ける。現在は電機、電子製品が対象の大部を占める。タイ国では東芝(株)がリーダーとなり、三菱電機系のKYE社、数社の部品会社がグループを作り、タイ国政府のEEI(Electrical
and Electronics Institute)と共にRoHS指令対応の管理モデルの試行中である。対応済みとの認証を受けられなければ輸出できないゆえ、輸出企業は真面目に取り組む。私は出張の際、関係者の会議に立ち会い、関係先のラボや工場を視察した。まだ最終段階ではないが、本件は計画通り実証され、実行に移され、輸出に貢献するであろう。
従来日本のODAは、グラント案件といえども相手国の申請があって初めて実行されていたゆえ、日本側の指向するところと異なるケースがあり、またハコモノが多く、とかく批判を受けた。このJ-Frontは金額が比較的少額であってもソフトの占める比率が高く、ハードの紹介も行われ、また日本の規格を普及させる手段ともなり得る。日本側の意向が反映するODAを実現するため先導的な役割を果たし、従来のものより一歩進んだ手段である。発展を期待したい。
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