マンスリー・レポート No.79 (2007年7月)
活動会員のレポート
  東京都中小企業振興公社ビジネスナビゲーターの4年間
  近野こんの 治夫はるお(元 丸紅)
班会議にて 筆者(右から3人目)

 ABICの推薦で、2003年4月に東京都が都内の中小企業支援を目的として新規に立ち上げたビジネスナビゲーター(BN)に就任して以来、4年間にわたり活動をしてきたが、本年3月31日を以って退任した。これまでのBN活動の紹介やABICとBNのこれからについてなど、ABIC会員の参考に供したい。

 就任当初は、60歳を越え、我がままかつ頑固で一家言ありそうな仲間の中で、協調性を持ってやっていけるのかという不安が強く、これほど続くとは思いもよらぬ結果となったが、経験的にも個人的にも満足で充実した4年間であった。

BNの組織・活動

 BNは、日本のあらゆる産業分野の大手企業OBから選抜された60名で構成、その内の40名が営業、残りの20名が技術出身で、毎年20名が入れ替えられる。5班編成で1班が12名である。初年度の平成15年度に第4班に配属され、12名の仲間が生まれた。学校でいえば1年4組というわけだ。

 初年度に公社が選定した対象企業は600社以上あったと記憶する。生活関連・介護福祉・環境・IT関連・機械の5分野に分けられ、それぞれの企業に対しBNが支援活動を行う。支援活動の基本姿勢は、「目線を中小企業のレベル合わせる」ことからスタートする。BNの活動の中心は販路紹介にある。訪問した企業は月間平均20社以上に達し、4年間では延べ1,000社以上という驚くような数の訪問件数をこなしたことになる。

 定例的に公社本部にてBNによる「班会議」と「5分野別会議」が開催され、支援企業に対する進捗状況や問題点等の連絡を行う。一方、支援企業によるBNを対象とした「製品説明会」が毎月多数開催され、BNは販路を考えながら製品詳細を認識していく。

 公社が立ち上げたBN組織は本邦初で恐らく世界初と思われる。日本の大手企業をほとんど網羅している点で全く新たな事業組織体であり、過去4年間で成約実績も安定して増え続け、各地で地場産業を抱えている地方自治体には特に参考にされている。この組織活用は全国的に今後益々大きな意義を持つと思われる。

 海外向けにも動き始め、JETROとの提携も進み、商品紹介も出始めた。JETROとの関係はますます深まると思われる。

 BNは、出身の大手企業に製品紹介することからスタートした訳であるが、当初、大手は中小企業製品に対し興味が薄かった。しかし継続的に製品紹介とBNの活動・組織について理解を深めてもらよう努めた結果、大手メーカーの中で積極的に中小企業製品を取り込もうとする企業が出始めてきた。加えて個人的人脈が予想以上に活用できたことも満足の一つであった。

中小企業の技術と販路

製品説明会

 中小企業は優れた製品や技術を持っていても、営業力、販路、人、金が不足している。こういった弱点をBNが公社本部とともにサポートし、技術アドバイス・販路開発・資金手当も含め会社紹介を行う。

 結果として、BNの紹介による中小企業製品が着実に陽の目を見るようになり始めた。大手企業ではコスト的に開発できない製品とか、アイディアにあふれ、予想を超えて大化けし得る開発製品が登場しつつある。

 中小企業の中で製品開発で認識を新たにした企業も増え、大手企業の目にも変化が見られる。大手と中小のコラボレーションの進展が加速して欲しいものである。

BNとABIC

 これまでに採用されたBNの人数は実数で140名に達した(ABICでは24名、延べで47人)。

 原則毎年20名のBNが入れ替わるが、推薦母体として「新現役ネット」の積極性が際立っている。商社OBであってもかなり新現役ネット所属が多いことも意外であった。次いで商工会議所所属が多く、「日本技術士会」と「コアネット」がそれに続き、次にABICとなっている。今年度のABIC会員の採用は2名に止まったが、継続を含め、合計10名が活躍している。

 東京都によるBN組織立ち上げは大いなる事業性の前触れであり、全国的に今後ますます脚光を浴びることになろう。特に商社出身BNは間口が広く、これからの支援活動に欠かせない。ABICから多くの会員がBNを目指して欲しいものである。ABICのより強い推薦を期待したい。

終わりに

 4年間の活動を通じて感じたことは、予想以上にアイディアにあふれた開発製品を多く見ることができたのは大きな経験であり、企業経営者とのやり取りは、かつての現役時代にはなかった新たなページでもあった。また、紹介した製品が大手企業に採用されたときは、喜びもひとしおであった。60歳を越えて多くの新しい友人を得たことは、何にもまして素晴らしい出会いであった。

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