千代田区の九段中等教育学校への出張授業があるとのABICの案内があり、「韓国から日本を見ると?」というテーマで応募したところ、幸いにも採用され、他の7人のABIC講師と一緒に本年3月、授業に赴きました。
ABICでの事前ガイダンスと、その後の学校側との打ち合わせを経て、簡単なレジュメを用意して、50分の授業を2回(3年生と2年生)行いました。
在職中韓国に駐在したことがあり、まさに1979年10月、時の朴正煕大統領の暗殺事件の翌日、非常戒厳令の真っ最中に、家族が東京から到着したこともあり、駐在期間中も、また帰国後も日本と朝鮮半島の関わりについて、関心を持って種々勉強してきたことが、このテーマを選んだ理由でありました。
授業では、私がそれまで疑問に思っていたことを中心に、盛りだくさんの内容に触れることにしました。(1) 古代の渡来人が、それまで比較的に遅れていた日本に仏教、建築、文字など多くの文化を伝えたこと(韓国の教科書では、教えてあげた、教化したと書かれている)、(2)
なぜ(百済)と書いて(くだら)と読むのか(韓国では、ペクチェと読む)、(3) 日本語とハングルの類似性(モンゴル語などとともにウラルアルタイ語族で文法が同じ)、ハングルの簡単な読み方、(4)
朝鮮征伐(韓国では壬申倭乱)、伊藤博文を暗殺した安重根は、日本ではテロリストであるが、韓国では義士と呼ばれる人達の一人であること、(5)
日韓併合は、韓国では国権被奪と言い、独立国の地位を否定された屈辱的事実であること、(6) なぜ戦後日本は一つの国として存続したのに、戦争責任のない朝鮮半島が分断された国家になったのか、(7)
毎年3月1日、8月15日に、日本で隣の国のことを思う人は多くはないと思うが、韓国では「三一節」「光復節」と呼ばれる国民の休日であり、「三一独立運動」は日本の植民地支配の終焉として、日本からの解放を祝っていること、等々。
時間は50分と決して長いとは言えませんでしたし、中学生には幾分重過ぎる内容かとも思いましたが、大人を相手にするようなつもりで講義を行いました。特に強調したかったのは、いくら歴史は後世の史家が決めると言っても、立場が異なれば見方も違ってしまうということです。これからますますグローバル化する社会において、異なる立場の人々の見方、意見を理解していくことが重要とのメッセージを伝えたかったのです。
生徒の大部分は、真剣に聞いてくれて、その後に送って頂いた生徒の感想文の中にも、的確に私の意図を汲み取ってくれて書かれたものもありました。また、韓国籍の生徒からは、両国の夫々の見方を理解することができてありがとうございました、と意義を認めてくれました。
歴史教育の現場では、現代史を対象とするものは少ないと思いますが、いろいろな国と付き合っていくには、現代史、特に20世紀の歴史を理解しておくことが肝要なことと思います。我々は、比較的自由な立場で論じることができますので、この種の企画があれば、参加していきたいと思っています。
何より感じたことは、「教えることは、学ぶことなり」ということで、都立図書館、区立図書館には、大いにお世話になりました。
講座講師一覧
氏名 |
出身企業 |
対象国 |
授業テーマ |
大西輝明 |
若狭湾エネルギー |
ヨルダン |
砂漠の国とその住民 |
森本 勝 |
JICA |
タイ |
開発途上国と日本の国際協力 |
広瀬真市 |
伊藤忠商事 |
アメリカ |
米国と日本の教育の違い |
世戸哲郎 |
住友商事 |
フィリピン |
フィリピンの生活 |
田中昭彦 |
三井物産 |
ブラジル |
ブラジルの社会 |
難波靖雄 |
三菱商事 |
ドイツ |
ドイツの生活と学校制度 |
中島正博 |
日商岩井 |
スーダン |
イスラム教国への経済協力 |
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