マンスリー・レポート No.90 (2008年6月)
活動会員のレポート
  モロッコでの日本語教育
  JICA シニア海外ボランティア モロッコ日本語教育 (元 日本ビクター) 村上 むらかみ 正幸 まさゆき

 2007年3月、JICAシニア海外ボランティアの日本語教師としてモロッコへ赴任した。配属先は古都フェズにあるスィディ・モハメッド・ベン・アブドゥラ大学である。

  同大学は全国に13ある総合大学の一つで、1975年に設立された。6学部3専門学校からなり、学生数35,000人、教員・研究員1,000人を有する国立大学である。その中の人文学部(学生8,000人、教員・研究員186人)で日本語を教えている。場所はフェズ市の中心部から少しはずれた見晴らしのよい所にあり、市内からタクシーで10分、歩いて30分の距離である。

ベン・アブドゥラ大学の学生たちと
授業風景

  当大学での日本語教育は公開講座であり、学生のほか少数ながら社会人も受講している。開講したのが2005年11月で、まだ2年半しか経っていないので、授業内容は初級段階である。この1年間は日本語教育を定着させることを主眼に行ってきた。

 授業は1年生と2年生が2時間授業をそれぞれ週4回、3年生が1時間の授業を週4回行っている。学生数は1年生が35名、2年生が20名、3年生が5名で合計60名である。
 受講生はいたってまじめである。東洋の言語は日本語以外教えていないので、東洋に関心を持つ受講生は皆、興味を持って受講している。また、インターネットが普及しているので、学生は日本の漫画、アニメなどから吸収した日本語をよく知っている。この国ではアラビア語が母語だが、昔からヨーロッパの影響を多く受けてきているため、学生の中には複数の外国語を話すものが多く、中でもフランス語はごく普通に話されている。

 モロッコの夏場の外気は40度を超え非常に暑いが、冬は日本人にとってはそんなに寒くはない。しかし、モロッコ人にとっては寒いようで、暖房のない教室で、学生たちはオーバーを着込み、マフラーをして帽子をかぶって授業を受けている。

ベン・アブドゥラ大学正門
広々とした大学構内

  モロッコでもテロの危険性が時々伝えられ、カサブランカでは昨年、実際に事件が発生した。しかし、ここフェズではそういう危険は少ない。概してモロッコ人はおとなしい国民で、人に対して気遣いもするし、思いやりもあり、対日感情は良いという印象を持っている。

 フェズはイスラム王朝の都としては9世紀以来の歴史を持つモロッコで一番古い町で、京都や奈良に似ている。その中心をなすメディナと呼ばれる旧市街は、坂道が多く、迷路のようになった狭い通路を挟んで店が並び、土日になると観光客でごった返す。思うままに迷路を行くと帰り道がわからなくなるので、いまだに私は、横道へそれてもすぐメイン通りへ戻って、そこからまた出発するようにしている。

 こちらでは貧しくても家族の絆が強く、親子の間だけでなく、兄弟の間でも小さな子供がもっと小さい子供の面倒を見ている光景をよく目にする。また、無駄なものは買わず、買ったものは大事にするという、日本人がいつの間にか失ってしまったものをこちらの人たちに教えてもらっている感じがする。

  日本は「日の昇る国」、モロッコは「日の沈む国」であり、モロッコの人にとって日本は遠く、情報も少ないため、もっと日本について知りたいという気持ちが学生たちにはある。初めてのイスラム社会での生活で、何かと戸惑うことの多い1年であったが、これから残された1年は、できるだけ日本のことをよく知ってもらえるよう心がけて授業を行っていきたい。

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