華僑・華人に関連するビジネス書や研究書は数多くある。しかし、入門書的なものはそれらを蓋然的にしか捉えられず、彼らの成功譚を民族性や伝統文化に依拠させてしまうものが多い。また、専門的なものは1カ国に限定した研究であったり、特定企業に特化した分析であったりする。このため、華人企業に興味を抱く一般読者にとり、「帯に短し、襷に長し」の状態であった。
実際、かれらが活躍しているアジアでは、華人ビジネスは多種多様の様相を呈している。本書は早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の博士学位論文に一部改訂が施されたものであるが、 1.
華人ビジネスには国ごとに異なりがみられ、それは各国の工業化政策・華人政策の異なるに起因すること、 2. 華人企業には創業当初に芽生えた特徴が維持されることで、それぞれに全く異なった企業行動が見られることを体系的に理論付けている。筆者の30有余年の商社勤務体験が直截的ではないが加味されている点で、本書は類書とは一線を画すものとなっている。
南洋諸国に深く「落地生根」した華人企業は、日系企業が彼の地に進出した当時からの最重要パートナーであった。1997年のアジア通貨危機を克服した華人企業の存在は、チャイナ・プラス・ワンを模索する現在、ますます重要性を増しているように思える。彼らの企業行動を理解するに当たり、本書は、示唆に富む書としてお薦めしたい。
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