2005年、5年計画で、文部科学省「世界を対象としたニーズ対応型地域研究推進事業」中東地域研究プロジェクト 「アジアのなかの中東/経済と法を中心に」が開始された。
その目的は、日本と中東との間に観察される認識・評価上のミスマッチを解消し、中東を日本にとって身近なものにすることである。この目的から、これまでに、いくつかの日本人への中東・イスラムに関する意識調査が実施され、その成果は順次、Research
Report Seriesとして刊行されてきた。またWeb上、次のURLでも公開されている。
http://www.econ.hit-u.ac.jp/~areastd/documentation.htm
ABICはこのプロジェクトに最初から協力し、このInformation Letterに2回(No.19 2007年7月とNo.23 2008年11月)、プロジェクトの紹介と中東に駐在した会員の対中東・イスラム観に関する調査結果が掲載された。
更に、2008年7月には、調査対象を中東駐在員から中東以外のイスラム教国駐在員へと拡大し、「中東以外のイスラム教国に駐在経験を持つビジネスマンおよび現地長期滞在者」に対する意識調査が実施された。先日、その調査結果の分析が終わり、その成果を筆者がまとめ、Research
Report Seriesの一つとして刊行することになったのを機会に、ご協力いただいたABIC会員へのお礼を兼ねて、調査の簡単な結果を報告したい。
さて、当該調査の目的は、中東以外のイスラム教国に生活した日本人の対現地社会・イスラム観を調査し、それとの比較によって、中東諸国で生活した日本人の対中東・イスラム観の特徴を明らかにすることである。そのため、6つの中東以外のイスラム教国の日本人会を介して、現在現地に長期滞在している日本人に調査票を配付し、その結果、88名の回答を得た。調査の協力を得た国は、マレーシア、インドネシア、ウズベキスタン、カザフスタン、パキスタン、ナイジェリアである。
また、同時に、中東以外のイスラム教国に駐在経験を持つABIC会員に調査票を郵送し、その結果、143名の回答を得た。会員の駐在国はマレーシア、インドネシア、ブルネイ、カザフスタン、パキスタン、ナイジェリア、ガーナであった。調査項目は、先に行った日本人の対中東・イスラム観に関する調査と同じである。
現在、現地に長期滞在している日本人に対する調査結果については、東南アジア(マレーシア、インドネシア)と、東南アジア以外(ウズベキスタン、カザフスタン、パキスタン、ナイジェリア)に分けて集計した。日本人にとって東南アジアは近い存在であり、他のイスラム教国とは区別して論じるべきと考えたからである。
また、過去にイスラム教国に赴任した経験のあるABIC会員に対する調査結果については、中東関係の調査と同じく、1979年のイラン革命までの時期(70年代末まで)、その後の湾岸戦争1991年までの時期(80年代)、そして現在まで(90年代以降)の3つに時期に分けて集計した。これは中東の現代史の中で、1979年のイラン革命と1991年の湾岸戦争が 非常に大きなインパクトをこの地域の政治・経済に与え、中東に駐在する日本人駐在員の生活や意識にも大きな影響を与えたためである。
詳しいことはResearch Reportに譲り、ここでは、分析結果として以下の二点だけを指摘しておく。
(1)過去に中東に駐在した日本人は、イラン革命や湾岸戦争などの影響を直接受け、現地やイスラムに対する意識や家族の帯同などにも、年代ごとに変化が見られたが、中東以外(特に東南アジア)では、この調査で聞いた事項に関しては中東の革命や戦争の影響が波及しておらず、継続して現地社会との交流も行われ、駐在員は安定した生活やビジネス活動を続けてきた。ただ中東でのテロや内戦が東南アジアや東南アジア以外のイスラム教国に駐在した日本人の、イスラムに対する赴任前や帰国後の印象に影響を与えている。
(2)過去においてのイスラム教国での赴任先は東南アジアに集中していたが、現在では、駐在地が東南アジア以外のイスラム教国にも広がっている。東南アジア以外の回答者の意識は中東と共通する部分が多い。しかし、東南アジア以外のイスラム教地域では、治安の悪い国、経済変動の激しい国があり、中東とは経済の発展段階の違いなどから、意識の異なる部分もある。
今後イスラム教国とのビジネスや交流を続ける上で、本調査を通して明らかになったイスラム教国とその社会の多様性や変化を認識することが、日本にとって重要であろう。
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