マンスリー・レポート No.105 (2009年9月)
活動会員のレポート
  医療機器商談のイタリア語通訳
西澤 にしざわ 俊一 しゅんいち (元 丸紅)

事務所にて打ち合わせ 筆者(中央)

 私のイタリア語との付き合いは学生時代から50年以上にもなるが、通算12年間のイタリア駐在を終わり、さらに定年を迎えた後は、年々イタリア語を話す機会も減り、最近では年に3〜4回の展示会参加程度になっている。
 そんな状況下で2009年9月16日、17日の2日間、ABICからの依頼で、千葉県船橋市の潟jチオンとイタリア(ヴェローナ市)の医療機器メーカーAT-OS社間の商品・技術説明の日伊語通訳業務にあたった。

 ABICでは、これまでボランティアとして、2007年沼津市での技能五輪、2009年4月横浜での世界卓球選手権の2回参加しているが、いずれも接した選手・役員が多数でそれも陽気なイタリア人であったので比較的気楽な気分で業務にあたることができた。しかしながら、今回は真面目な社長と律儀な技術者が相手で、かつ用語、質疑内容が高度に専門的であったことから、久々に長時間緊張を強いられる実務支援となった。
 対象の機械は病院などで発生する汚物の回収容器を自動的に洗浄、消毒するという特殊な分野でのもので、近年の院内感染の防止、環境問題への対応などからこの種の医療機器への需要は高まっており、欧州、とりわけスイス、オーストリア、ドイツなどでは医療機関よりの引き合いも活発、かつ機器の開発競争が繰り広げられており、同様な動きの日本においてニチオンは業界トップの位置を占めている企業である。
 医療機器に関する業務とは聞いていたので、「汚物」「洗浄機」「(水の)跳ね返り」「院内感染」等々日常会話では余り使用されない単語についてそれらのイタリア語を頭に入れていったのだが、事務所到着直後の技術・営業担当へのフィルムを使っての説明・質疑応答で、早速ISO条項第何条(にある・・)、座金ざがね、希釈剤、等々それこそ想定外の技術専門用語が数多く飛び出し厳しいスタートとなった。初対面の挨拶で、AT-OSの社長は「イタリア人でも我々の話はなかなか理解しにくいし、これまで働いてきた分野が異なれば使われる単語はなおさら難しいと思うよ」と言ってはいたが、正にその通りの展開であった。

倉庫にて機械を前に技術的な協議

 倉庫で前日到着した機械のちょっとした不具合につき協議を行なった際には、顧客への納期問題を心配するニチオン、それの対応策に追われるAT-OS社、双方が時間を争っての打ち合わせとなり、私もかなり忙しい事態になったが、両者が知恵を出し合い、問題は解決に向かった。限られた時間内でのやりとりは見事であった。 機械を前にしての質疑は翌日も行なわれたが、日伊双方がより良い機械の顧客への提供という点で大変真剣なやりとりを続け、時にはイタリア側の技術者が色をなして私に話す場面も出てくるなどしたが、結果としてはお互いに有益な議論になったようである。

 今回の業務で、イタリア人も日本の若い人達も私達の現役時代と少しちがうなと思った点を挙げると、 1.企業によるのかもしれないが、議論は真剣だが両社とも相手に余計な気を使うことが少なく、ごく自然な態度で臨んでいたこと。昼食にはニチオンが用意してくれたパニーノ(丸型のパンで中にソーセージやハムを挟んだサンドイッチ)を皆でぱくつき、時々仕事の会話が挟まるといった慣れ親しんだ雰囲気であった。<昔は色々考えすぎたのかも・・> 2.AT-OS社が接する場面すべてで、大変時間を大切にしかつ正確でニチオン側とよく波長が合っていたのが、両社の信頼関係を醸成する一つの要因であったとの印象を持った。<昔はイタリアの時間意識に悩まされたことも多かったので・・>

 2日間にわたり、お互いの言うことに耳をすませ、出てくる専門用語を反芻しながら会話を進めるのはさすがに疲れたが、日伊両社の若手技術者が機械にかける意気込みと常により良いものを求める姿勢には感銘を受けたし、将来にわたり両社がその分野で発展していって欲しいと強く感じた業務であった。

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