2008年3月からアルゼンチン貿易振興財団の輸出振興アドバイザーとして、ブエノスアイレスに駐在している。
広大な国土、豊富な地下資源、ハリケーン・地震・津波などの自然災害があまりないアルゼンチンは、経済発展のための大きな潜在能力を有している。さて、「20年後のアルゼンチンはどのようになっているだろう?」と問うと、「何ら変化していないと思う」という。理由を聞くと「だって、20年後も私たちアルゼンチン人が住み続けているだろうから」。
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地方に出張し、訪問した製材所にて 筆者 |
第二次世界大戦の終わる頃、アルゼンチンは外貨保有で世界のトップを争う一国であった。「南米のパリ」といわれる首都ブエノスアイレスの街をちょっと歩けばそれも納得したような気になる。しかし、現在のアルゼンチンは2002年の国家経済破綻から立ち直りつつあるとはいえ、体感で年20〜25%の高インフレ(政府発表では8〜9%)、富の分布はGINI係数では0.51と高く、貧富の差の大きい国。都市部には方々に貧民窟(Villa
miseria)がある一方、見渡す限り地平線の彼方まで一人で所有している大地主もいる。賄賂、汚職など盛んで、また自国通貨と自国金融機関が信用できず、政府の要人ですら金が入ればすぐ米ドルに換金し、スイスの銀行に預けてしまうとのこと。
当地の人に「どうしてアルゼンチンは低迷してしまったのか?」と聞くと、「アルゼンチンは決して変わっていない。ただ、多くの国々がその後、経済発展し、発展国に加わってしまったが、アルゼンチンは以前と同じであり、ただ相対的に落ちただけだ」との返事。
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犬もシエスタ(San Juanにて) |
私は事務所で一般企業の貿易相談にも応じているが、一番多くある相談は「自分のところは、これこれの製品を製造している。輸出をしたいがどこに売り込みを掛ければいいか分からない。買ってくれそうなバイヤーズリストが欲しい。できたら輸出のための手直しをせず、今の製品をそのまま買ってくれるところがいい.」という類のものである。中小企業やファミリー企業が大半を占めるアルゼンチン、信頼できない政府、信用できない金融機関、輸出税という国内の貿易障壁、手続き書類の煩雑さ、小規模のために需要量を満足できない、ロットがまとまらない等など種々の悩みもあるわけであるが、あせらず、買い手の来るのをじっと待つだけで、自分の製品を“市場の好みや要望に合わせる"というような積極性は薄く、また苦手なようである。
Tranquilo(トランキーロ=無理しない、気楽に)の国アルゼンチン。人々はゆっくりと日々の生活を楽しんでおり、日々のストレスもあまりないようだ。国内には休暇を過ごすのにいいところも方々にある。世界最大のイグアスの滝、南米のスイスと称されるバリローチェ、世界遺産になっているウマウアカの渓谷や月の谷(イスチグアラストの奇岩群)、カラファテの大氷河、そしてつい先日世界遺産となったブエノスアイレスのタンゴダンスなど。
ブータンの王様が提唱しているGDPならぬGNH(Gross National Happiness)即ち国民総幸福量の指標でアルゼンチンを見れば日本よりかなり上位にランクされている。ストレスを持たず、心に余裕を持ってのんびりと暮らすにはいい国である。
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水道局の建物 首都ブエノスアイレスには往年の繁栄を偲ばせる
ヨーロッパ風の建造物が多く残る |
「南米のスイス」と呼ばれるバリローチェ |
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