マンスリー・レポート No.108 (2009年12月)
活動会員のレポート
  任期付外務省職員(在外公館職員)としてカンボジアへ
  三栗 みつくり さとし (元 伊藤忠商事)

 外務省の任期付職員に採用され、2008年4月から在カンボジア日本国大使館で勤務している。大使館では経済・経済協力班に所属し、草の根・人間の安全保障無償資金協力と地雷除去支援事業を担当している。

 カンボジアには、1992年から約4年間、商社の事務所長として駐在していた。当時は治安が悪く、銃の保有が自由で発砲事件が頻繁に起きており不安な生活を余儀なくされた。また、無計画で長時間の停電、濁った水道水、雨が降ると四輪駆動車でなければ走れない道路、水に浸かり不通になる地下埋設の電話等に悩まされたことを思い出す。
 17年ぶりのカンボジアは、平和な普通の国に生まれ変わっていた。街は小奇麗な商店が立ち並び活気がある。そして、何よりもカンボジア人の顔が明るくなり、平和の大切さを痛感する。王宮前を流れるトンレサップ川の沿道には飲食店が数多く軒を並べ、多くの旅行者や当地在住の外国人等で夜遅くまで賑わっている光景を見るに、日没後の外出が命懸けだった17年前とは隔世の感がある。
草の根無償資金で支援した
クラチエ州立病院緊急処置棟の完成式典
カンボジア保健省マン・ブンヘン大臣(左)と筆者
草の根無償資金で支援した
クラチエ州立病院緊急処置棟の完成式典
カンボジア保健省モン・ブンヘン大臣と握手

 近年、カンボジアは内戦後の復旧、復興から脱してようやく経済成長を実現し、着実な発展を遂げている。1991年10月のパリ和平協定から国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)統治下での国民総選挙を経て、新生カンボジア王国の誕生を舞台裏で支援した日本がさらに復旧・復興に他国をリードする支援を継続してきたことがカンボジアの国造りに役立ったのだと思う。今後の経済発展にはODAに加えて、民間企業の投資による経済活性化が不可欠と思われる。今は中国、韓国からの投資が目立っているが、いずれ日本企業がその真価を発揮する日が到来するものと思う。

 私が担当している草の根・人間の安全保障無償資金協力は、開発途上国の草の根レベルにおける多様なニーズに的確かつ迅速に対応するための支援である。カンボジアでは1991年より教育、保健、農業、地雷除去等、経済社会開発活動に対しての支援を開始し、2009年3月末までに425案件を実施している。列席した学校校舎完成式典では、会場への沿道では学童たちが日の丸の旗を振って出迎えてくれ、また会場に入ると多くの村人達が胸に手を合わせて歓迎してくれるのを見るに、日本の支援への期待が大きいことを肌で感じる。
 カンボジアは世界有数の地雷汚染国である。長期にわたる内戦で無数の地雷が埋められ、その数は400万個〜600万個と言われている。正確な数はだれにも分からない。地雷汚染地域は約4,500裄と推測され、地雷の完全撤廃には100年以上はかかる。地雷原では日本製の灌木除去機及び地雷除去機が、地雷除去作業の効率化向上に貢献している。 カンボジアは日本のNGO発祥の地と言われる。1980年代後半、カンボジア難民支援で活躍した日本のNGOは、内戦終結後のカンボジアの国造りに各分野で活動している。日本のNGOの皆さんのエネルギッシュな活動、特に女性の活躍ぶりには感心させられる。

NGOスタディー・ツアーに参加の女子大生と質疑応答

 NGOが企画するスタディー・ツアーが人気である。参加した日本の若者はNGOの活動する現場に数日泊まり込み、生活を経験した後、目を輝かせて帰国すると聞く。日本の若者が、孤児院や学校でカンボジアの子供達からたくましく生きる姿や学校校庭に作ってあげたブランコに子供たちが心から喜ぶ姿に感動するのだと思う。自分の奉仕が人を幸せにする感動が多くの人たちに伝わり、カンボジアへの関心がより広がることを祈っている。

 カンボジアでの生活面の不安はない。17年前に比べれば、電気も水もあるし、日本の調味料も食材もほとんどのものが買えるようになった。ただし、保健医療には多少不安がある。昨年4月、5月と連続して二人の日本人が亡くなった。いずれも心臓病であった。日頃の健康管理が大切であることを痛感している。

 大使館での仕事は初めてのことでもあり、多少不安を持ってスタートしたが、大使館員の皆さんに支えられて今日まで大過なく過ごしてきた。残された任期は僅かであるが、企業OBが在外公館で働く意義を追い求めながらも任務を全うしたいと考えている。

草の根無償資金の支援予定現場にて 案件事前調査
筆者左端
大使館玄関前にて表敬訪問団と 
筆者左から3人目
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