マンスリー・レポート No.54 (2005年6月)
活動会員のレポート
  北スマトラへ出張講義に
    藤川ふじかわ 一弘かずひろ(元 丸紅)

 2005年1月17日から21日まで、インドネシア、北スマトラ州のメダンで開かれた「ASEAN-JAPAN Workshop on SME Development through Regional Trading House」(主催:海外技術者研修協会―AOTS)の講師として派遣され、初日は、総合商社の歴史・組織・機能等を約2時間、2日目は、いわば“商社経営論”で、事業計画の作成から資金調達・人事管理・外為と貿易実務およびリスク管理等を約4時間にわたり英語で平易に解説するという仕事である。

 2004年末の北スマトラ大地震から間もない時期であったが、メダンは天然の要塞なのか、ほとんど無傷であったため、インドネシアをはじめアセアン諸国から選抜された企業の中堅管理職や政府関係者約30名がAOTSの招きで参集した。講師陣もインドネシア貿易省役人やタイ、マレーシア等の大学教授や官民の専門家から成り、WTOから輸出計画・マーケティングに至るまで幅広い研修と交流が行われた。

 話は前後するが、今回の出張講義の経緯は、2004年12月10日前後にABICメコンデスク・コーディネーターの吉川氏から、かねて関係の深いAOTSからの急な要請で、貿易志向の強いアセアンの企業家研修のために是非行ってほしいと、どうやら“NO”とは言いにくい雰囲気の電話を頂いた。

 準備期間が短く、国内なら講師2〜3名で分業するぐらいのテーマだなと感じて躊躇したが、幸い、テーマによっては他の講義での資料が残っていたので、海外出前講義はABICの本望なりと、エイヤーでお受けした次第。

 ところで、商社OBは何処にでも現れるもので、今回忘れてならないのは、ABIC会員で、3月までメダンでJICAのシニア海外ボランティアとして、経営指導をしておられた、石川清氏(No.48に紹介記事掲載)の献身的なご協力である。

 同氏は、年末から終始AOTSと現地協賛者(IETC)との調整役をされ、私にはメールでの津波後の状況報告や、互いの講義内容のすり合せもしていただき、講義では現地での実体験に基づいたマーケティング論を展開後、参加者を工場見学にも案内して好評を博された。

 私の滞在は僅か3日間であったが、印象に残った事を少し以下に記す。

  1. メダンは直接の津波被害は無かったものの、会場のNOVOTELはバンダ・アチェに入る各国救助隊の活動拠点と化し、ホテル中、迷彩色の服装の男女兵隊が動き回る異様な風景に遭遇した。
  2. 参加者の英語力は国により若干の温度差はあるが、総じて高く、各々国家代表の意気込みでいるのか、大変熱心、冒頭の自己紹介では、制限5分を超えて延々と自国のPRをやり、進行役が苦労していたのが愉快でもあり、その熱意には頭が下がった。なんと、各代表中、英語が最も洗練されていたのが、ミャンマーのお役人。「米国仕込みですね?」と聞くと、‘してやったり’という顔をしていたのが、なんとも爽やかであった。
  3. 私個人では、今まで接点の無かったAOTSが力を入れる、途上国での事業の意義を再認識できた。

 アジアでは、香港・中国畑の長かった私にとって、興隆するアセアンの将来を担うエリート達の息吹に触れられたのが成果であり、我々の経験談が、少しでも役に立ってくれればと願いつつ、救援用の軍用機がいやに目立つメダン空港を飛び立ち、シンガポールに向かった。

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